ホテルにて隔離生活を送ることになった。
昨晩、友人の結婚式と飲み会をはしごして帰ってきた夫は38度も熱があった。コロナかインフルのどちらかを貰ってきたのだろうということで、すみやかに居住スペースを分ける。しかし1LDKの我が家にはエアコンがひとつしかなく、完全に隔離するとなるとどちらかひとりはエアコンが使えない。この酷暑のさなか、サーキュレーターのみで何日も過ごすのは、事によっては疫病より生死に関わる。というわけで近所のホテルを、とりあえず2泊ぶん抑えた。
7時40分、いつもアラームより早くは起きられないのに、まとわりつくような湿った暑さで目が覚めた。やはりサーキュレーターだけでは限界がある。夫は検査してくれる病院をてきぱき見つけ、自分で運転して病院へ行った。38度もあるのに頭も行動もしっかりしていてすごい。私ならああはいかない。
2泊と言いつつきっと延泊するだろう。ホテルにコインランドリーがあることを確認し、3日ぶんの衣類と、1週間は過ごせる量のスキンケア用品をリュックに詰めた。だいぶ迷った末に、読みかけの「ペスト」も放り込む。いま最も読みたくないけど、逆にいま読むことでとんでもなく共感し尽くせるかもしれない。
荷造りを終え、洗濯機と食洗機をいっぺんに回していると夫が帰ってきた。コロナ陽性。そんな予感はしていた。食洗機に入りきらなかった皿を手洗いし、ゴミをまとめ、洗濯物を外干しし、米を多めに炊く。昼に食べるトマトクリームチキン煮込みと、作り置き用の鶏むね南蛮漬け、もやしナムルを仕込む。大量のにんじんを千切りにしながら、私って夫のことをけっこう愛しているんだな、と思った。
昼飯を個別にとり、洗濯物を取り込む。もともと生理で体調不良なうえ、朝から家事をし通しでめちゃくちゃに具合が悪い。でもびっくりするほど平熱である。ただ生理がひどいだけで、発症の兆しはまだない。
家を出て初めて、化粧をしていなかったことに気付く。眉毛すらも描かないすっぴんで外を歩くことなどほぼない。汗ばむ額にハンディファンの風をあてがいながら、昨日見ていたYouTubeのことを思い出す。1日中ホテルにこもって、ゆったりと昼寝をしたり少し仕事をしたり映画を観たりする、おこもりステイのVlogを最近気に入って見ていた。私ものんびり何をするでもなくホテルで過ごしたいな~いいな~とは思ったけれども、こういうことじゃないよ。全然こういうことじゃない。神様、そこんとこわかってんの。
1時間もつという冷タオルは、炎天下のもと30分歩いていたらカラカラに乾いた。買い出しをしになるべく空いている寂れたスーパーに寄る。ミネラルウォーター2リットル、朝に食べるゼリー、生理なので鉄分入りのジョア。免疫がつきそうだからR1も。気分を上げるために、大好きなジンジャーエールとピーチネクター、キャラメルポップコーン、プライベートブランドのよくわからないおつまみセットと、アイスを2個も買った。
安く取ったはずの部屋には、普通の椅子の代わりにマッサージチェアが置いてあった。グレードアップしてくれたっぽい。家にテレビがないからうれしくて、マティス特集の番組を視聴予約する。さっさとシャワーを浴び、ジャイアントコーンを食べながら腰のマッサージを施されてみる。15分。私はとんでもないくすぐったがりで、大抵のマッサージチェアは爆笑してすぐやめてしまうが、これはかなり痛い。左の、尾てい骨の横あたりが特に痛い。なんでそこ凝ってるんだ?
雨が激しく降り始めて、台風のことを思い出した。きちんと警戒して買い置きなんかもしていたのに、昨日からのゴタゴタで頭から抜け落ちていた。サンダルで来てしまったし、日傘はあるけど雨傘はない。雨が降ると頭が痛くなっていやだ。近くに落ちたのかなんなのか、雷がどう聞いても「ぐりぐりぐり」としか表せない変な音で鳴っている。気が滅入ってきた、ポップコーンをあけて明るい映画でも観る。