あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

WINDOW開けるになりたい

これはライブレポではなく、ただライブを観た夜の日記。じっとり湿気った空気とは裏腹に、ホールの外観や友人とのツーショットを撮る人々の表情は期待に満ちていた。少しのあいだ降りしきった雨はすぐに止んで、外階段を輝かせている。リストバンドを装着した右手首がわずかに熱をもって、だけど、それが愛おしくもある。

 

新アルバム名を冠した「UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2023 "Ninth Peel"」(追加公演)は、シングルツアーかと錯覚するほど伸び伸びと自由度が高かった。新アルバムの曲をほとんどやりながら、MMMツアーとCITSツアーのエッセンスまでも感じる。今年は二千何年でこれは何ツアーだ?私はどの時空に生きている?と何度も思い、そのたびに、楽しいから何でもいいかという気持ちに落ち着く。人生や生きることについて考えさせられる曲も多いのだけれど、それよりも楽しくて楽しくて仕方ない。

 

私たちは大人になった。悲しいぐらい大人になった。心の底の底から、混じり気なしに純粋に "楽しい" と思えることなんてそういくつもなくて、そのうちのかけがけのない一つが、私にとってはUNISON SQUARE GARDENのライブ。手拍子もステップも声援も、誰に合わせるでもなく自ずと身体を突き破って飛び出す。UNISON SQUARE GARDENのようにありたい、と思う。バンドをやりたいとかそういう話じゃなくて。

 

「WINDOW開ける」のような人間に、私はなりたい。強く強くそう思った。追加公演を含めて二度観たが、どちらのときにもそう思った。曲調だけならば静かで暗いし、ユニゾン特有の早口言葉のような歌詞が詰め込まれているわけでもない。足し算どころか掛け算のオンパレードで作られているような楽曲たちの中で、引き算の美学をたたえたこの曲は異端であるとすら思う。だけど、だから、私はこの曲になりたい。他の曲では鮮やかなライティングもこのときは鳴りを潜め、黒と白の二種類しかない(次曲に繋がるラストだけ赤も使っていた気がする)。

 

暗転する舞台に、上方から差し込む幾本かの光の線。三人のシルエットが浮かび、表情はよく見えない。しんと静まった空間に、歌声やドラムのキック音がくっきりと輪郭をもって響く。比較的静かめな曲でありながら、気迫に満ち、張り詰めた全身全霊の演奏がぐっと胸に迫る。ただ圧倒されて、拳も挙げず体も揺らせずに棒立ちでいるのに、心は燃え上がるように熱くなっていく。マスクの中で半開きになった口、手ににじむ汗、見開いたままステージから離せない両目、自分という人間が今ここに生きている、ということが、暗闇に浮かび上がるようだった。世界に演奏している三人と、自分だけが存在しているかのような錯覚。心や身体を燃やすには、わかりやすく盛り上がるロックチューンじゃなくても充分で、そのことにまざまざと気付かされた。淡々としているのに芯は沸々と火傷しそうに熱い、この曲のような人間になりたい。立ち尽くしたままでそう思っていた、ずっと。強く。