初対面は雷門、お互いの顔も知らなかった。
北海道とは違い、東京はそこかしこで金木犀の香りがする。用事を済ませた私は都営浅草線に飛び乗った。少し暑いのも気にならなかった。知り合って半年ほども経つフォロワーにようやく会えるのだ。便宜上フォロワーとは言ったけれど、友人というかライバルというか相棒というか、彼女とはとにかくそういう関係である。本名も声もどんな文字を書くのかも全部知っていたのに、初対面だけがまだ済んでいなかった。なんつーバグ。
人力車の客引きと幾多の観光客にごった返す夜の浅草寺で、顔も知らない相手を探した。私にしたって黒髪だということしか教えていない。だけどなんだか会えばすぐにわかるような気がしていた。一瞬、人探しをしていたらしい女の子と目が合ったけれど、お互いに(こいつではない)という視線を交わして離れた。見つければわかる自信はあったが、案外探すのは困難だった。
いやなんかもう緊張どころじゃない、無事に会えるのだろうかと思いはじめたとき、ふとある人のブーツに目が留まった。あっ、と思った。靴、ボトムス、トップスと徐々に見上げていって、顔を見る前にもうこの人だという確信があった。
ライトアップを受けて赤く輝く雷門、溢れ返る人波、時が止まったような出会い、頭のなかでは『逃避行』が流れていた。
密度の高い半年ほどの交流を経て、ようやく私たちは初対面を果たした。
仲見世通りを並んで歩く。初めて会った人の隣を歩いているのは不思議な気分だったけれど、十年前から知っていた気もする。こんなこともあるんだなあ、と思っていた。生まれ育った場所や環境も年齢も違うのに、導かれるように出会ったこと。こうして並んで同じ景色を見ていること。夢のなかを歩いてるみたいだ。
フィーリングで参拝をすると、ふらっと見つけた居酒屋で乾杯した。モツ煮込みがめちゃくちゃ美味しかった。好きな人間と飲むビールはもっと美味しかった。懐メロばかり流れる居酒屋の隅でひそやかに、ありとあらゆるワクワクする話をした。
カラオケに行って、ホテルにチェックインして、また部屋で呑み交わす。私が浅草寺で手を合わせてなにを願ったのか、黄緑色の部屋で私たちがなにを話したのかは秘密だけど、なんだかビックバンでも起こせちゃいそうな気がしていた。
赤い夜も青い昼でもいつでもどこでも、私たちが揃えば超新星爆発のひとつやふたつ起こせる。そんな気がした。してる。いつか燃やす世界の真ん中に座りこんでふたり黒ラベルを飲んだ。尽きることのない話と私たちを結ぶ音楽とが混ざり合って夜に溶けた。これから紡がれていく長い物語の、プロローグのような邂逅だった。
ねえ、退屈な世界になんて、笑って火を点けてしまおうか。