あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

SUVオムレツ

夕方に差し掛かった新幹線では、そこかしこでプルタブを引く音がする。小気味のよい、楽しげな音色。出張から帰るサラリーマンたちがビールをあける音。仕事というほどではないけれど、出張めいた旅を終えた私は、晴れやかな気持ちでミニッツメイドのオレンジジュースを飲む。きゅっと心地いい酸味。26歳、最近ビールよりオレンジジュースがうまい。

 

初めて行った福岡、出張めいたその旅の途中で、新しい夢ができた。イヤホンから流れてくるMYSTERY JOUNEY、「窮屈な未来じゃ心揺れないの」という大好きなワンフレーズが胸を貫いて離れない。窓の外を眺めながら、痛いほどドキドキしていて、この歳になって、主婦になって家庭に落ち着いて、こんな気持ちが芽生えると思いもしてなかった。福岡の地でなにか思い出や証になるようなものがほしかったけど、見つからず好きなクロワッサンを買った。足元に置いたトートバッグからバターの香りがして、隣の人に迷惑をかけていないか定期的に気になる。

 

自立できないことに焦っていた。同年代の友達は大企業に勤めて着々と出世したり、海外で働いたり、スキルを活かして転職したり。比べるもんじゃないってわかってるのに、夫に養われて生きている自分のことを時々ひどくちっぽけに思う。でもなんか、開き直れた。支えてくれる人たちがいるのだからめいっぱい頼って、なんとか立てればそれでいい。それに私は自分で思っているより何もできないわけじゃなかった。あちこち支えられて生きているけれど、意外となんとかできることもある。私にしかできないこともあって、それならそれを極めていくのもいいんじゃないの、と単純なことに気付けた。耳のなかでは「もう全部作っちまうさ」と大好きな歌が鳴っている。

 

 

 

女の友情はライフステージが変われば簡単に壊れる。ことが多いと思う。疎遠になる友達も実際出てきた。結婚願望が強すぎて既婚者を恨みはじめた同級生とは、お互いそっと距離を置くようになった。仕方ないけど、かなしいもんはかなしい。それでも、互いが変わっていくことを素直に喜びあえる友人たちもいて、そういう人たちとはきっとおばあちゃんになっても仲良くしているんだろう。勝手にそんなことを考えていたら「私たちライフステージが変わってもずっと仲良くできそうだよね」「誰かに子どもができても、距離置くどころかむしろ面倒見に行くもんな」という話になってうれしかった。そうなれるといいな。

 

 

映画「かもめ食堂」や、くどうれいんの「桃を煮るひと」というエッセイに影響され、料理したい気持ちがむくむくと沸いてきた。スピーディーな作業が苦手ゆえ、料理をするのも好きじゃなく、いつも億劫だと思いながら夕飯をつくっているのだけど、ここ数日は料理をするのがすこし楽しい。昼飯もいつも納豆ごはんとか冷凍グラタンとか、調理しないで済むものばかりだったのが、きょうは小松菜のオムレツなんか焼いた。それにパセリとトマトのサラダ、納豆にもねぎを刻んでのせた(いつもは面倒でそれすらしない)。なんというか、調理の面倒くささよりも、"自分のことを労わっている" といううれしさが勝る。オムレツに適当にかけたケチャップは、どう見ても「SUV」としか読めない変なのたうち回り方をしているが、これは私から私への愛。