お察しのとおり私は自分の紡ぐ言葉が大好きでしょうがないんだけど、それと同時にどうしようもなく納得がいかない。魔法みたいなフレーズを仕込めたって何千の言葉の濁流のまえでは打ち砕かれるだけだ。こんなんじゃ全然足りない、からっぽの盆地をまばゆい言葉の海で満たすまでは一生満たされないんだろうと思う。相応に自惚れてはいたいけど不相応に酔いたいわけじゃない。自信と傲慢は違う。自分のことを大好きでありたいけれど、謙遜なんてしたくないけど、満足したらゲームセットだからずっとずっと貪欲に飢えてたい。満足なんて納得なんてしてないよ、いいものが出来たなって腰を落ちつけた翌日には悔しくなって居てもたってもいられなくなる、いつも。こんなんで足りるわけないじゃん。「そろそろナルシストと不安症の間の丁度良い目印をくれよ」 というback numberの歌詞が煮え立った頭のなかで尾を引いている。何に対してというわけじゃないけど悔しい、どうしようもなく悔しいから、途方もないインプットでもしようかしらそろそろ。
フレームアウト
昨日はちょっと嫌な酔い方をした。疲労が抜け切っていなかったせいか、大して飲んでもいないアルコールが知らぬ間に駆け巡って、立ち上がったときに視界が白く歪んだ。あ、これはまずい、と一面フラッシュを焚かれたような世界を見ながら思った。冷静に対処して無事に済んだけれど、死ぬときってこういうふうにあっけなく世界が歪んで閉じておしまいになってしまうんだろうなと思った。ライブ後に倒れたことも2度ほどある。脳みそはきちんと機能しているのに、全身の力が抜けて、ブラックアウトしていくなかでも頭だけがやけにぐるぐる動くあの感じ。目の前が真っ暗になって、あるいは真っ白になって、いつかこうして死ぬんだろうか。近い未来、身体のどこかにマイクロチップを埋め込むなりして、自分が死んだとき近しい人に通知がいくようなシステムが整えばいい。ストーリーズの、親しい人に限定公開するみたいな感じで。すべてのSNSで繋がっている友人たちのなかから死亡通知を送りたい人を非公開で選んだりして。そうしたらいずれ亡くなったとき、ああこの人は自分に死を通知してくれるほど親しいと思ってくれていたんだと切なくなったり、なられたりするんだろうか。なんの話だ。ちなみに悪酔いした2時間後にはケロッと回復して有吉ハワイ見て爆笑してたので心配は無用です。
ライジングサン2019 ⑦
1:30、フレデリック。
本来0時スタートのはずが、タイムテーブル変更によりさらに深夜へ。UVERworldの真裏になってしまったけれど、逆境すら演出に変える、よりディープな夜のフレデリックを観られる期待に胸は高鳴った。
マイヘアを途中離脱し、ROTTENGRAFFTYのステージ(客席との一体感すごかった!)をしばし楽しむ。下手最前をゲットし、そわそわ柵にもたれる。
ステージに隆児さんがヌルッと現れる。あまりに自然に登場したのでびっくりした。音を確認しにきた武さんが、先にドラムセットに座ってチェックしていたスタッフさんの後ろで、気づくまで軽く微笑みながら待っていた。人柄の良さ出ちゃってる。健司さんの羽織っていた黒いロングベンチコートがかわいかった。
お察しのとおり、私は康司さんばかり見ていた。短パンのセットアップに蛍光イエローのシャツと、同じく蛍光の靴下を合わせている。髪やヒゲもさっぱりと切っていた。あかるい照明を受け、横顔の美しいラインがくっきりと際立っていて、まだ曲も始まっていないのにどきどきした。
4人でしっかり顔を見合わせ、始まったのは『逃避行』。リハということで、いつもは大きく被さる合唱が起きず、コーラスがクリアに聞こえた。レアで良い。1番を歌い終えたあと健司さんが言った 「もう1回やろうか」 という声をマイクが拾う。また来るとわかっていても、大好きなイントロを聴くと心臓が跳ねた。
2回めの『逃避行』を終えるとはけていく。リハと本番のあいだの時間、ずーっとどきどきしていた。今年はフェスでも北海道に戻ってきたい、と言っていた1月のワンマンから、ずっとこの日を楽しみにしていたから。
袖から 「オイ゛ッ!!!!」 と野太い声が聞こえる。スタイリッシュな見た目に反して体育会系すぎる円陣の掛け声、が聞けるのもフェスの醍醐味である。
『シンセンス』をアレンジしたSEが流れる。そして告げられる 「フレデリック、はじめます」。幕開けだ。
【フレデリック】
リハ 逃避行(1番×2回)
最大のキラーチューン『オドループ』で、会場の空気をぐっとわしづかむ。EARTH TENTごと、場外に溢れだす客までもを踊らせていく。深夜のダンスホールは格別に気持ちいい。「色を塗って生きるのはあなた あなた」 の少し前のところから、俺の出番だと言わんばかりにいそいそ出しゃばってくる隆児さんがかわいらしい。
続く『シンセンス』に脳内麻薬はフル充満していく。この曲のときかは忘れたけど、「北海道いけるよな?」 「そんなもんですか?」 「もっと来いよ!」 と、いつもの丁寧な煽りとは違う、血に飢えた獣のような煽り方をしていた。夜成分たっぷり。サビで真上に飛ぶ兄と、横に独特なステップを踏みながら飛ぶ弟が対照的だった。
『KITAKU BEATS』のイントロに沸き、「遊ぶ?遊ばない?遊ぶ?遊ばない?」 という煽りに高まっていくボルテージは、「……遊ぶよなあ」 で臨界点に達する。深夜2時前に聴く『KITAKU BEATS』はあまりにも骨身に沁みた。「だから今夜は帰りたくないBeat 帰りたくないMidnight」 というフレーズがこんなに切実に響いたの、初めて。
温まりきったフロアに投じられる新曲『VISION』。10月リリースのこの曲は、MASHROOMなどでお披露目されはじめたばかりで、私は初のお目見えだった。あ、フレデリックの音だ、とわかるイントロからしてもう好きだと思った。新しい "これから" を見据えるような歌詞と、ディスコプールを思わせるようなサビの構成にわくわくした。
「今宵は同じ月が見えますか」 という歌詞があったけど。野外フェスとはいえ、ここEARTH TENTは屋内ステージのため、月出てたのに見えなかったんだよね。いつか、来年にでも、夜のSUN STAGEで月をバックに『VISION』を歌うフレデリックが見たいと思った。
来るとは思ってたけど『NEON PICNIC』が始まった瞬間息が止まった。「君はなぜ あの星に触れたこともないくせに」 と艶っぽく健司さんが歌えば、「ネオンライトが巡り巡る夜を ただの思い出にしないで」 と康司さんの透き通る甘やかな声が折り重なる。双子ツインボーカルのこの曲は、霧の摩周湖も驚くほど色気の濃度が高い。
「離さないで そらさないで このまま」 と健司さんが歌いあげたとき、会場の空気がじれったくゆるやかに流れた。抱き寄せられる1秒前、永遠にも思えるあの、時間の流れかたのような。あの瞬間、EARTH TENTにいた全員が NEON PICNICに抱かれていた気がする。
最後に 「夜明け前の 向かい風の中」 とロングトーンが響くと、大きな拍手が起こった。曲中、手が挙がるでもなかったけれど、みんなじっと耳を傾けていたからなんだとわかった。オドループで踊りにきている観客も多いフェスのステージで、フレデリックが体だけでなく心をも踊らせた瞬間を目の当たりにして、震えた。
間髪入れず、拍手から繋ぐようにすぐ『ナイトステップ』に入ったのも鳥肌だった。夜フレデリックの真髄、極まれり。ここから『かなしいうれしい』が終わるまで、あまりに楽しすぎて記憶まるごと飛んでるためレポ割愛。
『スキライズム』のイントロでわっと沸いた客席を見て、4人が嬉しそうに笑う。そういえばMVになっているとはいえ、アルバム曲だった。アルバム曲のイントロで盛り上がるの嬉しいだろうなあ。
「好きと嫌いの取っ組み合い」 で握った両手を戦わせてみたり、自分の頬をつまみながら 「狐につままれたら気づけって」 と歌ったり、健司さんの手の動き方がいつにも増してイキイキしていた。
(※ライジングの『スキライズム』は、GYAO! にて9/19まで無料で観られるのでぜひあの手つきを見てください)
あっという間にラスト。「音楽好きな人は両手上げて!」 と煽る健司さんの横で、にこにこ両手上げてる康司さん、の図がたまらなく好き。
「音楽好きなら新曲でも盛り上がれますよね?『イマジネーション』」。
結論からいうと『イマジネーション』があまりに凄すぎて、圧倒的にパワフルすぎて、いままでの余韻根こそぎ全部持っていかれた。
まちがいさがしの国を彷彿とさせるイントロや、耳に残るサビにニヤリとしたのも束の間、どんどん力強さを増していく声量の爆風で立っていられなくなりそうだった。声量おばけみたいなイメージあまりなかったんだけど、この時ばかりは男版Superflyかと思った。
さらに 「新曲だけど歌えるよね?」 とバチバチに煽られ、「イマジネーション イマジネーション」 と繰り返されるサビをその場で覚えて歌った。リリースすらされていないド新曲で合唱を求めるフレデリックも、完璧に応える観客も、なんかもう最高だった。新曲をレギュラーラジオで解禁、みたいな楽しみ方はなくなってしまったけど、全国各地のイベントやフェスでこうやって解禁していくのも伝聞みたいで粋だなあ。
オドループ始まり新曲締め、というサディスティック極まりない50分一本勝負を終え、健司さんは 「いつになるかわからないけど、またライジングサンでお会いしましょう」 と言った。次回はSUN STAGEで会えるといいな。
前にフレデリックを観たのが7月。たった1ヶ月の間に、とんでもない進化を遂げていてびっくりした。見るたびに何倍にもカッコよく進化してるバンド、これだから目が離せない。
フレデリズムキャップ爆裂かわいいでしょ、自撮りだから反転してるけど
さて!これにて ①~⑦ まで続いたライジングサン2019のレポは終わりです。お付き合いありがとうございました。
フレデリック「シンセンス」Live at 神戸 ワールド記念ホール2018/frederic「Shinsense」 - YouTube
ライジングサン2019 ⑥
23:20、My Hair is Bad。
2016年のライジングサン初出場以来、4年連続皆勤賞にしてようやくSUN STAGEに立つマイヘア。
私が初めてマイヘアを観て、そして取り返しもつかないほど惚れてしまったのが、まさに4年前のライジングでのアクトだった。
登竜門であるdef garageにて 「若手なめんな」 と吼えていた駆け出しのバンドが、とうとうメインステージまで実力で駆け上がった。バンドドリームを体現した晴れ舞台を、祝わないわけにいかなかった。
リハ1. いつか結婚しても
リハ2. 惜春
- アフターアワー
- ドラマみたいだ
- 真赤
- 悪い癖
- 告白
- クリサンセマム
- ディアウェンディ
- フロムナウオン
- 戦争を知らない大人たち
- 芝居
- 君が海
「新潟県上越市から来ました、My Hair is Bad 始めます」。
開幕宣言のごとく鳴らされる『アフターアワー』に揺れる客席。たぎる熱量に引っ張られるように、自然と手は挙がっていく。
火をつけた客席に『ドラマみたいだ』、「夏になる前の歌を」 と前置きして『真赤』、「君は幸せだった?」 と例の長い口上を敷いてからの『悪い癖』と、これでもかとキラーチューンを浴びせていく。深夜のステージで、椎木さんの白いTシャツが輝くようにはためいた。
My Hair is Bad全部載せといったブロックを終えると、ドラムがきらりと鳴って『告白』がはじまる。次いで 「世界一短いラブソングを」 と告げ『クリサンセマム』で客席を踊らせ、息も継がせず『ディアウエンディ』へと走り抜ける。
キラーチューンでぐっと掴んだ観客の心を、スピード感たっぷりにことさら引き寄せる。全国至るところでホームランを打ちまくってきたマイヘアが、"フェスのメインステージでの戦い方" を身につけていることに驚く。空気の作り方を、わかっている。
でも、このまま大団円で終わるわけなんてなかった。楽しく乗っていたジェットコースターがいきなりフリーフォールに変わる、そのスイッチが『フロムナウオン』だった。
椎木さんは自分たちの出演時間について 「ELLEGARDENのあと、銀杏BOYZとTHE BLUE HERBの裏。悪くない」 と言った。逆境をものともしないタフさに、あ、これは、と思った。メインステージだからって生ぬるいライブをするマイヘアなんて見たくなくて、だから、表に出さないだけでずっとヒリついていたことに気づいてゾクッとした。
「ライジングサン4年連続出場で SUN STAGEに立たせてもらった ELLEGARDENのあと バンドを始めて11年 苦労話をするつもりはないが バットをギターに持ち替えて ELLEGARDENをコピーしたあの頃やまじゅんと出会い バヤリースと出会い あの静かな街で静かになんてしていられなかった 鳴らさずにはいられなかった」
糸を手繰り寄せるように次々と言葉が溢れだす、淡々とした語り口調とは裏腹に物語に熱が乗って、魅入られたのか金縛りにかけられたのかわからなくなるぐらい、椎木さんから目が離せなくなる。
「こないだある人に今はHIP HOPだって言われた ギターロックは古いんだって あと5年経ってまた流行るまで我慢するしかないんだって 我慢ってなんだよ 何を我慢するんだよ 待ってなんかられない 今 爆発だろ」
怒鳴るとも吼えるともつかない叫びに、会場じゅうが固まる。この瞬間が見たかった、4年前からずっと。メインステージに集まったたくさんの人たちが、しん、とただ次に降りかかる言葉を待っているこの緊張感。一瞬先にどう転ぶかわからない、この限界まで張りつめた空気。SUN STAGEの主導権はいま、間違いなくMy Hair is Badにある。
「覚えておきたいことはいつまでも残る 必要のないものは忘れていく つらいこと 嫌なことを忘れられないのなら それが自分にとって必要なのかもしれない」
「何をするにも時間は引かれていく 好きな映画を見るのに2時間 好きなアルバム聴くのに1時間 バラエティー見るのに1時間 小説を読もうと思ったら200ページから2000ページまで じゃあロックバンドはどうだ? ロックバンドにはどれだけかかる? ……ロックバンドには何もかからない ロックバンドは一瞬だから見逃すなよ」
「140字のTwitter 250円の牛丼 1円にもならなかったなんて言わせない。フロムナウオン」
じっと身じろぎできずに立ちすくんでいた客席が、一気に弾ける。
マイヘアが本当に凄いのは、真っ当なロックサウンドでも、抉られるほど生々しい歌詞でもなく、みぞおちをぶん殴られるような圧倒的なステージングだ。軽い気持ちで観に行ったが最後、胸倉を引っ掴まれてぼろぼろに殴り倒される。俯瞰を許さない、4DXみたいなヒリヒリしたライブがMy Hair is Badの真骨頂である。
思いつくままに紡がれる前口上もさることながら、サビ以外の歌詞はほとんどアドリブで歌われるというとんでもない曲だ。『フロムナウオン』。歌う合間にも、「したいのはすり減ったロウの話じゃない これから俺らがどう燃やしていくか」 「できる できないじゃない やるかやらないかだ」 と熱い言葉が織り込まれてこの曲はようやく完成する。
いつだって凄いけど、メインステージで聴いたこの日の『フロムナウオン』は特別凄かった。
4年前、ライジングのいちばん小さなステージで叫んでいたのと同じように、煙草の匂いが充満する狭苦しいライブハウスでがなっていたのと同じように、いちばん大きなステージで歌い切った『フロムナウオン』は本当に格好よかった。私の大好きなロックバンドは最高に格好よかった。
時間の都合上、ここで会場をあとにした。ごめんねって思いつつステージに背を向けて歩き出すと、とんでもない光景を目の当たりにした。観客みんな、殴られたみたいな顔してた。ほんとに。
『真赤』であんなにも沸いてた客席みんな、殴られたように、動くこともできず呆然と突っ立っていた。My Hair is Badの本領にめいっぱい殴られて佇んでいる観客の顔、凄かったよ。凄かった。
『戦争を知らない大人たち』に後ろ髪引かれながら、大本命のフレデリックを観るため、ROTTENGRAFFTYが演奏中のEARTH TENTへと移動する。
マイヘアの熱気に火照った頬に、夜風がつめたかった。
My Hair is Bad - ドラマみたいだ Music Video - YouTube
次回⑦はいよいよラスト。私の大本命、深夜のEARTH TENTを揺らしたフレデリック。
ライジングサン2019 ⑤
21:00、ELLEGARDEN。
ライジングサンでは21時に花火が上がる。つまり、花火を打ち上げ終えてすぐにエルレのステージが始まるというわけだ。夏の夜、打ち上げ花火、ELLEGARDEN。エモいなんて簡単に言いたくないけど、こんなにもエモい組み合わせってある?
スタンディング・レジャーシートゾーンに収まりきらなかった観客は、テントの立ち並ぶエリアにまで溢れかえり、21時を告げる花火をともに見上げた。老若男女、ELLEGARDENを待ち望んでいたいろんな人たちが、同じ花火を見上げている光景は心に迫った。
花火が終わりきらないうちに、ひときわ大きな歓声が上がる。普段ならアーティスト名だけが表示されるスクリーンに、ELLEGARDENのドクロマークが現れた。エルレのことなにも知らない私にだって、いまから伝説の夜が幕を開けるのだということぐらいわかった。
- Fire Cracker
- Space Sonic
- Monster
- 高架線
- Supernova
- Pizza Man
- 風の日
- The Autumn Song
- 金星
- Red Hot
- ジターバグ
- Salamander
- 虹
- Make A Wish
- スターフィッシュ
SUN STAGEの上空、月がぽつんと佇んでいた。台風で1日目が中止という前代未聞のスタートを切った今年のライジングサン。無事に開催が決定した2日目は、星こそ見えなかったけれど月が見えるほどには晴れていた。伝説になるであろうステージを見守るように。
4人が現れる。私の好きな数々のバンドマンに影響を与え、たくさんの人の青春を揺さぶり、あんなにも復活を願われていたELLEGARDENが、同じ北海道の地を踏みしめている。同じ時代を生きて、同じ夜風を浴びている。震えずにはいられなかった。
『Fire Cracker』で幕を開けてからというもの、イントロが鳴るたびにあちこちで歓声があがった。サビではめいっぱい飛ぶひとたちに揺らされて大地が揺れていた。冗談じゃなく、本気で揺れてた。
集まった人たちのぶんだけ、その人とエルレとの想い出がきっとあって。背中を押されたり青春を支えてもらったりした大切な曲を、二度と聴けることがないと思っていた曲を10年越しに聴けるって、どんなに。
スターフィッシュぐらいしかまともに知らなかったぐらいにわか野郎なんだけど、そう思ったら泣けてしまった。大好きなアーティストが歩みを止める苦しさも、再び歩き出すことがどれだけ嬉しいことかも痛いほど知っているから、涙が止まらなかった。
英詞が多いからこそ、たまに出てくる日本語の歌詞が驚くほど沁みた。『高架線』の 「思うよりあなたはずっと強いからね」 なんて、優しく歌うのずるい。
私、エルレのこと本当になにも知らないけど、細美さんが柔らかく言った 「うぶと高橋と雄一が楽しければそれでいい」 って言葉を聞いて、すごくじんときてしまった。ああ、それが全てだからこうやって10年越しに戻ってきてくれたんだなって。
「活動休止から10年、俺も36から46になりました」 と細美さんが言うと、客席からえーっ!?と大きく声があがる。46にはとても見えない。
「いや、近くで見たら46だよ?最近老眼で丼飯の中身見えなくなってきたし。自分がなに食ってるかわかんねーの。爪切ろうとしてもてめえの爪は見えないしよ」
それからエルレを観に集まった人たちを見渡し、後ろの人の顔も見えればいいのにな、とつぶやいた。
SUN STAGEはライジングで今まで見たこともないほどの人で埋め尽くされており、それぞれ好きな方法でエルレのステージを楽しんでいた。両手を振り上げる人、サビを合唱する人、笑っている人も泣いている人も、みんなが。
最初は曲そんなに知らないからなあってビール片手に大人見していた私も、気づいたら涙ぐみながら肩を揺らしていて、圧倒的にこんなはずじゃなかった。「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる」 って歌詞の、君、が細美武士であった人たちばかりが集まっているんだなあと思ったら。
この日飲んだ、プラスチックカップのなかでぬるくなった黒ラベルが今のところ人生でいちばん美味しいと思った。
(ところで細美さんが、黒いテープでぐるぐるに目隠しされた缶を飲んでいて、「スポンサーがサッポロ(黒ラベル)だからさ……これで中身サッポロだったら面白いけどね」 と言っていた。そんな手込んだことしてまでなんの銘柄飲んでたんだ)
「休止前にBRAHMANと対バンしたとき、すごい怒られたことがあって」 と話す。「九州で対バンしたときかな、ベースのマコトに、客には自由にしてくれって言うくせに大合唱煽るの何事だって怒られて。……でもみんなの声聞きてーんだもん」
いかつい46歳男性がそんなキュートなこと言う?!って不覚にもキュンときた。
「歌詞わかんなかったら "にゃー" でいいから!」 なんて言いつつ始まった『Make a Wish』は全編ガッツリと英詞で、新参に容赦なさすぎて笑った。かと思えば起こった大合唱に 「ありがとうなばかやろーども!」 と嬉しそうに言っていたりして、突如吹き荒れたツンデレ最大風速にまんまとあてられてしまった。
どの箇所でだか、「10年待たせたけど、また来年もライジングサン出れるかもしんねーじゃん。呼ばれるかわかんないけど」 とさりげなくこぼした細美さんの言葉が、最後に演奏された『スターフィッシュ』と重なるようで。
ああ、私はいま、音を立てて動き出した 「おとぎ話の続き」 を目撃しているんだ、と思った。再び動き出した伝説の続きを、現在進行形で見ているんだと。一度閉じたおとぎ話の、次のエピソードに足を踏み入れているんだと。
「こんな星の夜は全てを投げ出したって どうしても君に会いたいと思った」。
台風明けの空には星も虹も出ていなかったけれど、エルレのステージを見守るようにずっと月が出ていた。やさしく浮かぶ月、天に届きそうに駆け巡る照明が月よりも眩しかったこと、等身大のロックンロールを掻き鳴らしていたELLEGARDENのこと、そのすべてがほんとうに美しくて忘れられない。
美しい、美しい夜だった。
次回⑥は、エルレからバトンを引き継いだ深夜のMy Hair is Bad。
エバーグリーン
日付が変わって今日から9月、私の愛してやまない夏がとうとう終わる。缶チューハイ片手に手持ち花火をした、お祭りやフェスに行った、海やビアガーデンにも行った、美術館や観覧車やバーにも行けた、炎天下のしたでスイカバーを食べて滴らせては笑い転げた、思いつく限りの楽しいことに7、8月を費やした。
といってもキラキラ充実していたかといえばそんなこともなく、バイトに明け暮れるか飲んだくれるような日々だった。ボウリングのピンが倒れないだとか、くだらないことを肴にいつまでも飲んで笑っていられた。ハイライトはないけど毎日が楽しかった。
特筆もできない最低で最高な夏は喉元を過ぎていく。学生最後、22の夏はラムネよりも発泡酒の味がして、そんな安っぽさがこのうえなく愛おしいと思う。私の愛してやまない夏という季節はもう過ぎ去ってしまうけど、来年になったらまた冷えたジョッキで乾杯しようね。
夜の手
いろんな、いろんなことがテトリスのように積み重なっては日々を編んでいくけれど、ゲームみたいに綺麗に消えてしまうことはないから私は人生を愛してる。
数日のあいだで、好かれるように立ち振る舞ったり、反対に嫌われるように仕向けて動いたりした。レモンサワーで赤くなった頬の裏側にめいっぱいの思惑を詰めこんで笑っていた、そんな自分をつい先ほど湯船でふやかして排水溝に流した。好きな人にはより好かれたいし嫌いな人には嫌われたい。自分の身を切り取って差し出す愚かな私のことをわかってくれなんて言わないから、バカだねって笑ってくれたらそれでいい。
私の美学をわかってくれなんて思わない。人よりもいびつな私の軸を、理解なんかしてくれなくていいから、めいっぱいぶつかりたいと思う。青とオレンジという真逆の色が溶けあう夕焼けのグラデーションは、空の青色だけじゃ絞り出せない。昼と夜が手をつないだ結び目を、一辺倒の青だけじゃ打ち出せない美しさを、その向こうを見たくて夜の手を取る。