23:20、My Hair is Bad。
2016年のライジングサン初出場以来、4年連続皆勤賞にしてようやくSUN STAGEに立つマイヘア。
私が初めてマイヘアを観て、そして取り返しもつかないほど惚れてしまったのが、まさに4年前のライジングでのアクトだった。
登竜門であるdef garageにて 「若手なめんな」 と吼えていた駆け出しのバンドが、とうとうメインステージまで実力で駆け上がった。バンドドリームを体現した晴れ舞台を、祝わないわけにいかなかった。
リハ1. いつか結婚しても
リハ2. 惜春
- アフターアワー
- ドラマみたいだ
- 真赤
- 悪い癖
- 告白
- クリサンセマム
- ディアウェンディ
- フロムナウオン
- 戦争を知らない大人たち
- 芝居
- 君が海
「新潟県上越市から来ました、My Hair is Bad 始めます」。
開幕宣言のごとく鳴らされる『アフターアワー』に揺れる客席。たぎる熱量に引っ張られるように、自然と手は挙がっていく。
火をつけた客席に『ドラマみたいだ』、「夏になる前の歌を」 と前置きして『真赤』、「君は幸せだった?」 と例の長い口上を敷いてからの『悪い癖』と、これでもかとキラーチューンを浴びせていく。深夜のステージで、椎木さんの白いTシャツが輝くようにはためいた。
My Hair is Bad全部載せといったブロックを終えると、ドラムがきらりと鳴って『告白』がはじまる。次いで 「世界一短いラブソングを」 と告げ『クリサンセマム』で客席を踊らせ、息も継がせず『ディアウエンディ』へと走り抜ける。
キラーチューンでぐっと掴んだ観客の心を、スピード感たっぷりにことさら引き寄せる。全国至るところでホームランを打ちまくってきたマイヘアが、"フェスのメインステージでの戦い方" を身につけていることに驚く。空気の作り方を、わかっている。
でも、このまま大団円で終わるわけなんてなかった。楽しく乗っていたジェットコースターがいきなりフリーフォールに変わる、そのスイッチが『フロムナウオン』だった。
椎木さんは自分たちの出演時間について 「ELLEGARDENのあと、銀杏BOYZとTHE BLUE HERBの裏。悪くない」 と言った。逆境をものともしないタフさに、あ、これは、と思った。メインステージだからって生ぬるいライブをするマイヘアなんて見たくなくて、だから、表に出さないだけでずっとヒリついていたことに気づいてゾクッとした。
「ライジングサン4年連続出場で SUN STAGEに立たせてもらった ELLEGARDENのあと バンドを始めて11年 苦労話をするつもりはないが バットをギターに持ち替えて ELLEGARDENをコピーしたあの頃やまじゅんと出会い バヤリースと出会い あの静かな街で静かになんてしていられなかった 鳴らさずにはいられなかった」
糸を手繰り寄せるように次々と言葉が溢れだす、淡々とした語り口調とは裏腹に物語に熱が乗って、魅入られたのか金縛りにかけられたのかわからなくなるぐらい、椎木さんから目が離せなくなる。
「こないだある人に今はHIP HOPだって言われた ギターロックは古いんだって あと5年経ってまた流行るまで我慢するしかないんだって 我慢ってなんだよ 何を我慢するんだよ 待ってなんかられない 今 爆発だろ」
怒鳴るとも吼えるともつかない叫びに、会場じゅうが固まる。この瞬間が見たかった、4年前からずっと。メインステージに集まったたくさんの人たちが、しん、とただ次に降りかかる言葉を待っているこの緊張感。一瞬先にどう転ぶかわからない、この限界まで張りつめた空気。SUN STAGEの主導権はいま、間違いなくMy Hair is Badにある。
「覚えておきたいことはいつまでも残る 必要のないものは忘れていく つらいこと 嫌なことを忘れられないのなら それが自分にとって必要なのかもしれない」
「何をするにも時間は引かれていく 好きな映画を見るのに2時間 好きなアルバム聴くのに1時間 バラエティー見るのに1時間 小説を読もうと思ったら200ページから2000ページまで じゃあロックバンドはどうだ? ロックバンドにはどれだけかかる? ……ロックバンドには何もかからない ロックバンドは一瞬だから見逃すなよ」
「140字のTwitter 250円の牛丼 1円にもならなかったなんて言わせない。フロムナウオン」
じっと身じろぎできずに立ちすくんでいた客席が、一気に弾ける。
マイヘアが本当に凄いのは、真っ当なロックサウンドでも、抉られるほど生々しい歌詞でもなく、みぞおちをぶん殴られるような圧倒的なステージングだ。軽い気持ちで観に行ったが最後、胸倉を引っ掴まれてぼろぼろに殴り倒される。俯瞰を許さない、4DXみたいなヒリヒリしたライブがMy Hair is Badの真骨頂である。
思いつくままに紡がれる前口上もさることながら、サビ以外の歌詞はほとんどアドリブで歌われるというとんでもない曲だ。『フロムナウオン』。歌う合間にも、「したいのはすり減ったロウの話じゃない これから俺らがどう燃やしていくか」 「できる できないじゃない やるかやらないかだ」 と熱い言葉が織り込まれてこの曲はようやく完成する。
いつだって凄いけど、メインステージで聴いたこの日の『フロムナウオン』は特別凄かった。
4年前、ライジングのいちばん小さなステージで叫んでいたのと同じように、煙草の匂いが充満する狭苦しいライブハウスでがなっていたのと同じように、いちばん大きなステージで歌い切った『フロムナウオン』は本当に格好よかった。私の大好きなロックバンドは最高に格好よかった。
時間の都合上、ここで会場をあとにした。ごめんねって思いつつステージに背を向けて歩き出すと、とんでもない光景を目の当たりにした。観客みんな、殴られたみたいな顔してた。ほんとに。
『真赤』であんなにも沸いてた客席みんな、殴られたように、動くこともできず呆然と突っ立っていた。My Hair is Badの本領にめいっぱい殴られて佇んでいる観客の顔、凄かったよ。凄かった。
『戦争を知らない大人たち』に後ろ髪引かれながら、大本命のフレデリックを観るため、ROTTENGRAFFTYが演奏中のEARTH TENTへと移動する。
マイヘアの熱気に火照った頬に、夜風がつめたかった。
My Hair is Bad - ドラマみたいだ Music Video - YouTube
次回⑦はいよいよラスト。私の大本命、深夜のEARTH TENTを揺らしたフレデリック。