21:00、ELLEGARDEN。
ライジングサンでは21時に花火が上がる。つまり、花火を打ち上げ終えてすぐにエルレのステージが始まるというわけだ。夏の夜、打ち上げ花火、ELLEGARDEN。エモいなんて簡単に言いたくないけど、こんなにもエモい組み合わせってある?
スタンディング・レジャーシートゾーンに収まりきらなかった観客は、テントの立ち並ぶエリアにまで溢れかえり、21時を告げる花火をともに見上げた。老若男女、ELLEGARDENを待ち望んでいたいろんな人たちが、同じ花火を見上げている光景は心に迫った。
花火が終わりきらないうちに、ひときわ大きな歓声が上がる。普段ならアーティスト名だけが表示されるスクリーンに、ELLEGARDENのドクロマークが現れた。エルレのことなにも知らない私にだって、いまから伝説の夜が幕を開けるのだということぐらいわかった。
- Fire Cracker
- Space Sonic
- Monster
- 高架線
- Supernova
- Pizza Man
- 風の日
- The Autumn Song
- 金星
- Red Hot
- ジターバグ
- Salamander
- 虹
- Make A Wish
- スターフィッシュ
SUN STAGEの上空、月がぽつんと佇んでいた。台風で1日目が中止という前代未聞のスタートを切った今年のライジングサン。無事に開催が決定した2日目は、星こそ見えなかったけれど月が見えるほどには晴れていた。伝説になるであろうステージを見守るように。
4人が現れる。私の好きな数々のバンドマンに影響を与え、たくさんの人の青春を揺さぶり、あんなにも復活を願われていたELLEGARDENが、同じ北海道の地を踏みしめている。同じ時代を生きて、同じ夜風を浴びている。震えずにはいられなかった。
『Fire Cracker』で幕を開けてからというもの、イントロが鳴るたびにあちこちで歓声があがった。サビではめいっぱい飛ぶひとたちに揺らされて大地が揺れていた。冗談じゃなく、本気で揺れてた。
集まった人たちのぶんだけ、その人とエルレとの想い出がきっとあって。背中を押されたり青春を支えてもらったりした大切な曲を、二度と聴けることがないと思っていた曲を10年越しに聴けるって、どんなに。
スターフィッシュぐらいしかまともに知らなかったぐらいにわか野郎なんだけど、そう思ったら泣けてしまった。大好きなアーティストが歩みを止める苦しさも、再び歩き出すことがどれだけ嬉しいことかも痛いほど知っているから、涙が止まらなかった。
英詞が多いからこそ、たまに出てくる日本語の歌詞が驚くほど沁みた。『高架線』の 「思うよりあなたはずっと強いからね」 なんて、優しく歌うのずるい。
私、エルレのこと本当になにも知らないけど、細美さんが柔らかく言った 「うぶと高橋と雄一が楽しければそれでいい」 って言葉を聞いて、すごくじんときてしまった。ああ、それが全てだからこうやって10年越しに戻ってきてくれたんだなって。
「活動休止から10年、俺も36から46になりました」 と細美さんが言うと、客席からえーっ!?と大きく声があがる。46にはとても見えない。
「いや、近くで見たら46だよ?最近老眼で丼飯の中身見えなくなってきたし。自分がなに食ってるかわかんねーの。爪切ろうとしてもてめえの爪は見えないしよ」
それからエルレを観に集まった人たちを見渡し、後ろの人の顔も見えればいいのにな、とつぶやいた。
SUN STAGEはライジングで今まで見たこともないほどの人で埋め尽くされており、それぞれ好きな方法でエルレのステージを楽しんでいた。両手を振り上げる人、サビを合唱する人、笑っている人も泣いている人も、みんなが。
最初は曲そんなに知らないからなあってビール片手に大人見していた私も、気づいたら涙ぐみながら肩を揺らしていて、圧倒的にこんなはずじゃなかった。「いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる」 って歌詞の、君、が細美武士であった人たちばかりが集まっているんだなあと思ったら。
この日飲んだ、プラスチックカップのなかでぬるくなった黒ラベルが今のところ人生でいちばん美味しいと思った。
(ところで細美さんが、黒いテープでぐるぐるに目隠しされた缶を飲んでいて、「スポンサーがサッポロ(黒ラベル)だからさ……これで中身サッポロだったら面白いけどね」 と言っていた。そんな手込んだことしてまでなんの銘柄飲んでたんだ)
「休止前にBRAHMANと対バンしたとき、すごい怒られたことがあって」 と話す。「九州で対バンしたときかな、ベースのマコトに、客には自由にしてくれって言うくせに大合唱煽るの何事だって怒られて。……でもみんなの声聞きてーんだもん」
いかつい46歳男性がそんなキュートなこと言う?!って不覚にもキュンときた。
「歌詞わかんなかったら "にゃー" でいいから!」 なんて言いつつ始まった『Make a Wish』は全編ガッツリと英詞で、新参に容赦なさすぎて笑った。かと思えば起こった大合唱に 「ありがとうなばかやろーども!」 と嬉しそうに言っていたりして、突如吹き荒れたツンデレ最大風速にまんまとあてられてしまった。
どの箇所でだか、「10年待たせたけど、また来年もライジングサン出れるかもしんねーじゃん。呼ばれるかわかんないけど」 とさりげなくこぼした細美さんの言葉が、最後に演奏された『スターフィッシュ』と重なるようで。
ああ、私はいま、音を立てて動き出した 「おとぎ話の続き」 を目撃しているんだ、と思った。再び動き出した伝説の続きを、現在進行形で見ているんだと。一度閉じたおとぎ話の、次のエピソードに足を踏み入れているんだと。
「こんな星の夜は全てを投げ出したって どうしても君に会いたいと思った」。
台風明けの空には星も虹も出ていなかったけれど、エルレのステージを見守るようにずっと月が出ていた。やさしく浮かぶ月、天に届きそうに駆け巡る照明が月よりも眩しかったこと、等身大のロックンロールを掻き鳴らしていたELLEGARDENのこと、そのすべてがほんとうに美しくて忘れられない。
美しい、美しい夜だった。
次回⑥は、エルレからバトンを引き継いだ深夜のMy Hair is Bad。