洗濯機のなかから水色のシャツが出てきた。我が家にこんな、きれいな水色のシャツなどない。狐につままれた気持ちでもう一度洗濯機に手を突っ込み、引き上げる。白いはずだったドナルドのTシャツは、それはそれはきれいな水色をしていた。
デニムの色移りか、と気づく。夫が買ったばかりの古着のデニムが犯人と思われる。洗濯機に入っていたことすら気づかなかった。やられた。夫のドナルドTと白シャツ2枚、私のミッキースウェットとパンツともこもこのヘアターバンが水色、あるいは毒々しい色に染まっている。救いだったのは、夫の白シャツがいつも着ているブランドものの古着ではなく、ユニクロと無印だったこと。タグに印刷された「UNIQLO」「良品計画」の文字にあれほど安堵したことはないし、もうしたくもない。
インナーのつけ置き洗いをするときに使っているばかでかい花瓶(ドライフラワーを飾る専用としていたが、ドライフラワーを飾るのに飽きてつけ置き洗い用となった)には、どう頑張ってもスウェットしか入らない。温厚な私でもさすがに憤りながら、最寄りのドラッグストアに駆け込む。怒りつつも奇妙に頭の芯は冷めていて、牛乳とビタミンサプリとプチトマト、事を片付けてから貪り食う用のポテチまで買った。自分の冷静さが可笑しい。8リットルのバケツを、2個買い占める。よほど鬼気迫る顔をしていたのか、いつも笑顔で挨拶してくれる工事現場のおじちゃんは、バケツ2個をむき出しで抱えて早歩きしている私からそっと目を逸らした。気遣ってくれてありがとう。
努力の甲斐もむなしく、すべて水色に染まったまま戻らなかった。まだらに染まった部分がなくなって均一な水色になりはした。ベージュだったミッキースウェットは毒々しくくすんだ水色に、ベージュのヘアターバンは絵の具を洗ったあとの汚い水の色に。夫とディズニーに行こうと思って買った揃いのスウェット、私のだけ毒ミッキーになってしまった。一旦ブルーグレーに染まった薄ピンクのパンツは、つけ置きの過程でベースのパンツ部分だけ元の色に戻り、レースだけブルーグレーのまま、バイカラーのパンツになってしまった。夫は今朝、爽やかなスカイブルーのシャツを当たり前のように着て、白のニットカーディガンを羽織って仕事へ行った。私は「バケツを買いに走りに行かされた」ということだけに憤っていて、洗濯物が水色に染まったことについては、ネタになっておいしいと思っている。