あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

惜冬キャラメリゼ

住む部屋を決めにはるばる飛んだ。ただ会うということが不要不急にあたってしまう私たちは、内見でもいう大義名分がないとゆうに半年は会えない。半年ぶりに会った彼氏の声は、いつも聞いていた電話の声とちょっと違って聞こえた。少し前までペーパードライバーだった彼氏は、公共交通機関に乗らないために慣れない高速道路を何度も走ってくれた。座り慣れない助手席で私は読めない地図を睨んだ。元から仲は良かったけれど、息のぴったり度合いが恐ろしく研ぎ澄まされており、お互いの目の動きや間合いでなんとなく考えていることが分かるようになっていた。付き合いたての頃よりもずっと、何をするにも楽しくてひたすら笑い転げていた。美しいケーキの並ぶショーケースを前に、せーので食べたいのを指そうとなったとき、ひとつしか残っていない柚子のシブーストを同時に示したこと。突然ノリで社交ダンスごっこを始めたけれど、双方身体が固すぎてまるでサマにならなかったこと。道の駅で売っていたお風呂に浮かべるうんちのおもちゃ(買わなかった)。味噌煮込みうどんの染みだらけになった白いセーター。田舎のラブホみたいな外観の、ハウリングしまくるカラオケボックス。私が人生初めて食べる冷麺に感動しすぎて、肝心の焼肉そっちのけで冷麺を食べまくったこと。空港へ向かう道中にふたりともコーヒーを飲みすぎて、慌ただしくトイレに駆け込んだこと。お互いしんみりした雰囲気が苦手すぎて、別れ際になるとオーバーすぎるほどおどけてしまうこと。特に煌めきを伴って思い出すのはそんなどうでもいいことばかりだ。どうでもよくて、くだらなくて、でもそういうもので私はしばらく息ができる。片道切符で会いに行く春のために、結局半分こしたケーキの甘さを何度でも噛みしめる。