あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

交わらない街

10年も前に片想いをしていた初恋の人が夢に出てきた。真剣な将来の話を彼氏としたちょうどその夜に。

 

中学2年生の、宿泊研修に行ったときとまったく同じ班構成だった。私と、初恋の人と、私の恋路をやかましく冷やかしていた女友達と、あと男子ふたり。ダサい紺色のブレザーも、初恋の人をちらっと見たときの胸の高鳴りも、そっくり中学2年生のままだった。美術の時間に描いた絵をそれぞれ班で発表する、なんていうのは実際したことがなかったから、ここで夢だとわかった。私はディック・ブルーナの色合いを真似て街の絵を描いていた。左側には鮮やかな色彩のカフェテラスと、それこそディック・ブルーナが描いたような動物のキャラクターたちがいる。右側には硬いタッチで近代的なビルが建ち並び、様々な肌の色をした人間が行き交っている。「空想と現実を描きました」と紺色のブレザーを着た私は言っていた。あちら側とこちら側。きらびやかな空想と、無機質に存在する現実。その交わらなさを1枚のちぐはぐな絵にしたのだと。夢のなかで、初恋の人とは目が合わなかった。ただ胸が苦しかった。iPhoneのアラームで目覚めると彼氏の腕のなかだった。寝ぼけた彼氏が、普段はあんまりしないのに、今朝に限っては私の名前を呼んでぎゅっと抱きしめた。

 

私は、初恋の人のことが、人生でいちばん好きだった。狂おしいほど好きだった。もうこんなに人を好きになれないと14歳の時に悟ってしまった。実際そうだった。今までもこれからもそれは変わらない。はっきりそうとは言わないけど、彼氏も私じゃない人のことがいちばん好きだった。人生で最も好きだと思えたわけではないのにこの人と結婚を考えていいのかと、お互い思ったことがある。でも、私がいちばん好きだったのは初恋の人だけど、人生でいちばん愛したのは過去にも未来にも今の彼氏だと思う。初恋の人はしょせん過去の空想で、こちらが私の生きるべき現実だと、寝ぼけた頭で、だけど明瞭にそう思った。愛おしい現実はここにある。