いつか自分の書いたものが活字になって出版されたい、ロキノン載りたいって息巻いてた昔の私に、大好きな本屋とタワレコにあなたの文字が並ぶ日が来るよって教えてあげたいと思った。
(詳しくはこれに書いてあるので先に読んでもらえたら→夢をかなえた話 - あおいろ濃縮還元)
自分のレビューが載っているロキノンが店頭に並んでいるか見に行く、という、ずっとやってみたかったことをやった。
大通のタワレコ。バンプの表紙を見つけて手に取る。ジャパンレビューが載っているページを迷いなく開いた。いつも通っているタワレコに、よく読んでいる雑誌に、私の綴った言葉が並んでいる。打ち震えるようだった。何度も何度も見た夢のなかを私は歩いていて、でも整然と並んでるのは紛れもなく私の言葉で、夢なんかじゃなくて、涙をこぼしちゃわないようにすぐに閉じて店を出た。
中学生のころ、全校生徒代表で作文を発表することになったとき、「作文っていうより小説みたいに綺麗ですごいけど、難しくてよくわからない」 といろんな人に言われたことを昨日のように覚えてる。高校生のころ、文芸部の大会に小説を出したとき、「1年生にしては上手いんだけど高校生らしくないから審査員ウケしないと思う」 と苦笑されたことも覚えてる。すごいけどわからない、上手いけど高校生らしくない、そんなことを言われるのが普通に貶されるよりもずっと堪えた。綺麗でも伝わらなかったらなにも意味がないのに。
同時に、こんなことも覚えてる。小学生のころ、私が書いた拙い小説を目を輝かせて読んでくれた友達のこと。中学の文化祭のステージで作文を発表しにいくとき、担任の先生がかけてくれた言葉と、教室を出るとき背中で受け止めたクラスメイトの拍手。文芸部で書いた作品を大好きですと言ってくれた、名前も知らない後輩の震える声。自分の言葉がだれかのなかに息づくってことを知ったいくつかのシーンを。
伝わらない、届かない悔しさを何度も味わった。私がなにかを書くのなんて自己満足のはずなのに、それでもわかってもらえないことはつらかった。壁に向かってひとりで喋り続けているみたいで虚しかった。だけどたまに、「届いた」 と思える瞬間が確かにあって、そのまばゆさを噛み締めて何度だって筆をとった。
やっと心の底から伝えたいと思うことができて、筆をとることにしたとき、怖かった。綺麗ではあるんだけど、とか、上手いけど難しくてわかんない、だとか、絶対に言われたくなかった。誰にでもわかりやすくて、でも素っ気ないわけじゃなくてきちんと美しくて、読んだあと世界の色が変わって見えるような、ずっと心に残るような、感情を揺さぶれるような、そんな言葉を紡ぎたかった。それがうまくいったのかどうかの判断は、読んでくださったあなたに任せるけれど、私としては上出来だったと思う。
いかに伝わる言葉でフレデリックの素晴らしさを語れるか試行錯誤しながら、それでも私にしか出せない私らしさをふんだんに練り込んだつもり。カチッと背広を羽織りながらも中にピンクのシャツを着ちゃうような、フォーマルさと個性のバランスにとても気を遣った。初心者には納得して、玄人は共感して、私のことをよく知ってる人はニヤニヤして読んでくれたら嬉しいなと思う。
そして、書き上げた時は 「これが載らないでなにが選ばられるっていうんだ?」 ってぐらい自分では自信作だと思えたけれど、発売日が近づくと、まあ実際手に取ってくれるのなんて友人くらいだろうし、そのなかで良いと思って感想をくれる人なんてほんのひと握りだろうって思ってた。だから、FF外の方からも感想をいただいたり、自分では思ってもみなかった温かい言葉をたくさんたくさん掛けていただいて、本当に毎日泣いてる。泣いちゃうってここ数日で死ぬほど言ったけど、文字通り本気で泣きまくってる。嬉しすぎて。
お察しの通りたくさんの伏線を張り巡らせたし、小ネタも山ほど仕込んだ。構成も練りに練った。だけど、いただいたリプライのなかに 「目頭が熱くなった」 という感想が多くて、実際泣かせようとまでは狙っていなかったので、嬉しすぎる誤算に私が泣いてしまった。泣きすぎ。涙のプール作れちゃう。
本当に、届いてよかったと思う。私の世界を変えたこのレビューが、読んでくださったあなたの世界を少しでも色づけてくれていたらいいなと思ってる。
まあ、こういうことって表に出さないでいたほうが格好いいんだろうけど、私はスターじゃないので。生身の人間だから。ちょろっと本気出したら夢叶っちゃいました~♡みたいな奴だと思われたくなかったひねくれた女の長い長い弁明でした。途方もない下積みのもとに今があるから、自力で着実に叶えたから、今回ぐらいはもうちょっと浸らせておいてほしい。
長年の夢が叶って、次に叶えたい夢という夢はないけれど、目指すべき姿はもう見据えている。持ちうるすべてを全力投下して書き上げたこのレビューが一発屋では困るのだ。今のところ最高傑作だと胸を張って言えるけど、これが人生の最高傑作になってしまっては困る。まだしばらく噛み締めてはいたいけど、これで満足するつもりは全くない。このクオリティのものを常に書けるように精進したい。それが当面の目標。
わかりやすさと複雑さのちょうどいいバランスの上に立つ、一見涼しいけど芯は熱い、青い炎みたいな言葉を紡げる人でありたいって思ってる。日本家屋のもつ無駄のないシンプルな美と、西洋建築の過剰すぎる着飾った美しさ、私は欲張りだからそのどっちも欲しい。
いつかの私に、大好きな本屋とタワレコにあなたの文字が並ぶ日が来るよって教えてあげたい、けど、タイムマシーンがあったってきっと教えないからせいぜい頑張ってここまで来て。待ってる。