あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

換気

ふと思い立ち、もう読まない本を紙袋に入るだけ詰め込んだ。11冊入った。私は元来コレクター気質であり、読み返さないとしても本は本棚に大切にしまっておきたいのだけど、そうも言ってられないほど蔵書が増えすぎた。本多孝好乙一は私の青春だった。何年経っても新品と見紛うほど大切に綺麗に読んだから、なんだかさみしい。100円くらいかな、と当たりをつけて査定に出したら、ほんとうにきっかり100円で売れた。

 

この数ヶ月、数回のバイトを除いてはずっと実家に閉じこもっており、つまりは田舎に閉じ込められており、息が詰まる思いをしていた。誰にも干渉してほしくない私は、スーパーへ出掛けるだけで遭遇したお隣のおばさまに就活の進捗を聞かれる、田舎特有のコミュニティが大嫌いである。街へ出たくてしょうがなかった。古本を売り、脱毛をし、マスクに付かなさそうなファンデーションを買って、行きつけのカフェへ入った。たったそれだけのことで、積もり積もったストレスが晴れてゆく。誰も私に見向きをしない、都会の冷たさが心底好きだ。

 

ド街中にあるくせに常に空いていることが取り柄である行きつけのカフェは、私以外に客がいなかった。経営が心配になる。テナント料、払えているのだろうか。あまりに心配なのでケーキセットを頼んだ。さっさと食べ終えて帰る15分ほどの間にも客の入りはなかった。いつもなら歯に詰まるのが心配で選ばないオレオのチーズケーキも、マスクがあるから気兼ねなく食べられる。ところで脱毛をする際、レーザー光から目を守るためにタオルとゴーグルを被せるのだけど、マスクとゴーグルで顔の9割を塞がれるのが面白くてしょうがなかった。顔をすべて塞がれながらバンザイで両脇を投げ出している状況の無防備さ。

 

ほんとは試験前だし大人しく家で勉強しまくるべきなんだけど、わかってんだけど、ここんとこストレスが発散できなくて1ヶ月ほど体調を崩していたりして、心身ともにズタボロであって、だからこれは必要な換気だった。もう大丈夫。頑張ります。

 

頭巾でヘブン

効かないイブに臍を噛みながら、睫毛も溶け落ちそうなほどグズグズに泣きながら、少しでも気持ちを和らげたくて星野源を延々流しながら、多大なる迷惑をかけながらもなんとか走り抜いた夜のこと、いつかハッピーエンドに変えてやるから忘れてなんかやるもんか。どうしようもない腹痛とやるせなさを温めてくれるだろうと期待したホット低脂肪乳は胃の底にずしんと沈んだ。狼が赤ずきんに騙して飲まされた石ころみたいな重さだ。誰かに、何かに騙されているんだろうか、私は。それでも騙し騙しやるしかないって腹を括ったこと、まさかまだ忘れちゃいないでしょう。どんな夜も必ず明けるだなんて深いんだか浅いんだかわかんない言葉は胡散臭くて信じらんないけど、私は私の底なしの負けん気を信じてる。ねえ、目隠しの頭巾を被せたら、一瞬で撃ち抜いてやるからじっとしてな。

底抜け

恥の多い生涯を送ってきましたなんて言うつもりは毛頭ないが、大変長らく愛を知らない生涯を送ってきた。私自身は溢れんばかりの愛を叩きつけるように生きてはいるものの、愛され方がわからなかった。暗い話ではなく、ただ私の愛を受け入れる壺が底の抜けた欠陥品であったという話。家族にはそれなりに愛されてきたと思う。友人にもとてつもなく恵まれている。それでもずっと、注ぎ込まれては一向に溜まる気配のない逃げ水を見つめては涙していた。いつも何か足りなかった。きっと愛されているのにそれでも「愛されてみたい」と飢えるように強く思ってしまうことが欲深くて醜くて嫌だった。つむじから爪先まで満ちていた呪縛は、二十数年もかけてするんと解けた。愛されるってこういうことだったんだ、大切にされるってこういうことを言うのだと、抜け落ちたと思っていた壺の底の滑らかさをようやく知った。長女であることを求められてきた私にとって、我儘なんて勇気を出して言ってみたところで流されるか突き放されるかしかない残酷な贅沢品であって、だからかなり時間が経って恐る恐る言ったそれを当たり前のように受け入れられたとき、涙が止まらなくなった。あー、こういうことだったんだ、そうなんだ、良い子じゃなくても可愛げも素直さにも欠けたこんな言い方でも受け入れてもらえるんだ、って思ったらそそくさと電話を切ったそばから熱い涙がつたってイヤホンと耳の間を気持ち悪く濡らした。私はずっと幸せに生きている。でも「幸せになる」その手段として、「自分を幸せにする」という方法は知っていても、「他人に幸せにしてもらう」なんて選択肢はあまりに贅沢すぎると思っていた。そう思っていたのだ。濡れたイヤホンを拭いながらまた泣いた。幸せすぎてこぼれ落ちた涙だって悔し涙と等しくしょっぱい。

 

ライウ

昨日の雷雨が嘘みたいに晴れ。襟ぐりのよれてきたラフな緑のワンピースは、お洒落な部屋着に降格させようか悩みながらも結局着ていくことにした。2ヶ月ぶりの電車にどことなく緊張する。昨夜発作のように泣いた瞼はすぐさま枕元にあったグリーンダカラで冷やしたからかやけに涼しげである。一応シャドウを多めにのせた。悲惨なプリンになった茶髪を黒に染め、ばっさりとショートにしてもらう。超かっこいいお姉さんになってしまった。大ぶりのイヤリングをつけてシンプルながらも女性らしいワンピースなんかを着て微笑んでるショートヘアのお姉さん、に憧れているから今年はそれになろうと思う。久々のバイトは恐ろしいほど暇だったのに、たった4時間働き終えると全身クタクタだった。小手先の筋トレだけじゃどうにもなんないんだなあ、と思う。いつもなら酒のひとつも欲しくなるところだけど杏仁豆乳をカゴにいれた。ピカチュウのグミは売り切れていた。バニラの匂いがするヘアオイルを貰ったから、ちょうど切れていたボディクリームもバニラで揃えた。バニラの匂いがするショートヘアのお姉さん、めっっちゃくちゃ良くない?本当のいい女っていうのは自分でこういう事を言わないものですけれど。

不慮のターコイズブルー

なぜか引き出しから出てきたターコイズブルーのポスターカラーを捨てた。文字通り、ポスターの色を塗るのに適した鮮やかなテクスチャの絵の具。水彩絵の具と油絵の具のちょうど真ん中ぐらいの重さ。それからチャックの壊れた財布と金平糖の瓶と、引き換え損ねたライブハウスのドリンクチケットを捨てた。大掃除は苦手だから、目についたものから少しずつ捨てていけば来年引っ越すまでにはうまいこと片付いてやしないだろうか、という超希望的観測。遠方の彼氏とペットボトルのコーラで遠隔乾杯をした。決まった飲み物を各自買っておいて乾杯するというのは、各々違ったお酒を持ち寄ってえーそれ美味しそー!と盛り上がるオンライン飲み会とはまた別の楽しさがある。さっきからなんかお腹が痛いのは賞味期限切れの近いヨーグルトをめちゃくちゃ食べたからだろうか。グラノーラをてんこ盛りにしたせいだろうか。弟がゲーム実況配信を始めたらしく、音楽やラジオを聴いているイヤホンを外すと、テンション高く何事かを喋り続けている弟の声が隣の部屋から漏れきこえてくる。なんにも変わり映えのすることをしていないなあと思って素朴な日記のようなブログをこうして時々つけている。そうすると、あ、なんにもしてなくないじゃん私、毎日ちゃんと違ったふうに生きてんじゃんと思える。これは生活をたしかめるための日記。

 

犬の模様のブランケット

おでんにからしを付けるとうまいという世の摂理に齢23にもなってようやく辿り着く。時折おじいちゃんが作ってくれる鍋いっぱいのおでんこそがおでんだと思っているから、コンビニのそれはいちども食べたことがない、そういえば。大根とさつま揚げとはんぺんと卵とにんじんとこんにゃく、たまに入る餅巾着、ほろほろに煮たチキンレッグは気まぐれで手羽先に変わることもある。コンビニで売ってる牛すじなんかも食べてみたいと思いつつ、なんとなく手を出せずにいる。気が狂ったように問題集を解いている。問題集と問題集のあいまに生活をしている。今までの私なら夜が明けるまで寝どきを見失っていたんだろうけど、12時には寝る前の電話をしたいから11時には風呂に入って寝支度を済ます、だからそれまでにはノルマを終わらせておく、という人間らしいことも出来るようになった。ちゃんとご飯を食べて寝る。そんな当たり前のことが少しずつ出来るようになってきた。相変わらず寝つきと夢見は悪いけれども。もし将来猫を飼うことがあれば「にどね」か「夜」という名前をつけたい、とふと思った。この名前は犬ではなく猫に合うと思う。生き物あんまり得意じゃないからたぶん飼わないが、架空のペットの名前を考えるのはたのしい。年に50冊本を読みたいと思っていて、今読んでいるのを読了すれば20冊に届く。一昨年までは年に20数冊ほどしか読めなかったから上半期の滑り出しとしては上々。ただ、母校の図書館で学外利用登録をして、ふらっと本を借りに来ては学食を食べて帰る、ということを卒業後しようと思っていたのに、このご時世だからまだ達成できていない。今年中にはしたいな、どうかな。学食の冷やし釜玉うどんと、妙にポップな柄ばかり取り揃えていた図書館の貸し出しブランケットが恋しい。

 

なんでもない日

治安の悪い柄した柄シャツでスーパーへ行き乳酸菌を買う。最初は免疫力アップのために飲んでいたR-1が、免疫どうこうより便秘に効くためなんとなく手放せなくなった。昨日の夜はぶ厚いスウェットにブランケットに毛布の重装備でも震えていたのに、今日は嘘みたいに暑くて半袖で伸びている。来月からバイト先が営業を再開する。つかの間のニート生活もまもなく終わりである。自室とスーパーとコンビニのみで構成されるトライアングルじゃ星座にもなりやしなくて退屈だ。早くバイトがしたい。そんなことを言っている間に飲み干した乳酸菌が腹の中でぐつぐつ煮え立っている。この頃は豆乳を1杯と、水もよく飲むようにしているから、なんとなく身体中が潤っている気がする。新しい本がどうにも欲しいけれど金がないので積ん読を切り崩す日々である。大昔に読んだマスカレード・ホテルの筋は綺麗さっぱり忘れたが、続編というか前日譚であるマスカレード・イブはかなり面白かった。ホテルの方も読み返そうかな、気が向けば。