あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

VISION編

11月16日、フレデリックを観た。観た、というより、目撃してしまったというニュアンスのほうが近いかもしれない。あの公演を目の当たりにしてから1ヶ月近くが経ったいまでも、私はあのとき何を見せられたのだろうと怖くなる。暴力的で鮮烈な夢を、みていた気がする。

 

SEASON4にあたるZeppワンマンツアーVISION編、初日を飾った札幌公演。初めての下手側はなんだか新鮮でドキドキした。前から2列目、隆児さんのエフェクターボードを眺めながら開演を待つ。

 

 

 

 

 

暗転。歓声。ステージに置かれた小さな4つのモニターがパッと光る。アナログテレビの砂嵐のように明滅する画面。『パパマーチ』『リリリピート』などのイントロが、ザーッというノイズを合間に挟みながら次々流れては切り替わっていく。

 

音とともに明滅を繰り返すモニターに釘付けになりながら、このツアーが「VISION編」と銘打たれていたことを思い出す。聴覚だけでなく、視覚にも訴えかけてくる公演であることを思い知って震えた。ノイズで繋がれた不安定な音と画面に、引きずり込まれそうになる。圧倒されて動けない。頭がおかしくなりそうだった。

 

SE:https://www.instagram.com/tv/B6MVQdNh1fS/?igshid=111c9lejq646j

 

これまでのフレデリックを継ぎ接ぎしたSEが止む。「フレデリズムツアー、始めます」。

 

 

 

【11/16 セットリスト】

  1. VISION
  2. シンセンス
  3. パラレルロール
  4. 逃避行
  5. トウメイニンゲン
  6. リリリピート
  7. シンクロック
  8. ナイトステップ
  9. NEON PICNIC
  10. 対価
  11. FUTURE ICE CREAM
  12. ディスコプール
  13. KITAKU BEATS
  14. オドループ
  15. イマジネーション

En1. VISION(FAB)

En2. 夜にロックを聴いてしまったら(FAB)

En3. 終わらないMUSIC

 

 

 

 

 

SEで呆然としていた頭を醒ますように響いた「V I S I O   N」というエフェクトがかった声。『VISION』、ツアータイトルにもなっている新曲で幕は開かれた。「最高の1日を約束します」と健司さんは言う。

 

ステージへ幾何学的に張り巡らされたネオン管が、色とりどりに光を放って舞い踊った。Zeppを満たす音と光に、耳も目も心も、余すことなく奪われていく。

 

 

『シンセンス』で「よく来たねえ」と笑いかけられると、こっちの台詞だよって笑いながら泣きたくなった。地元に好きなバンドが来てくれることに私はいつまでも慣れない。好きなバンドを年に1回観られるかどうかの瀬戸際で、今年4度も北海道を訪れてくれた彼らには頭が上がらない。目の前に大好きな4人がいて、心地よいメロディーに体を揺らせること、当たり前じゃない。そんなごちゃごちゃした考えも『パラレルロール』のイントロが鳴れば竜巻のように吹っ飛ぶ。沸々と、血液は滾った。

 

 

この日の『逃避行』は、照明も相まって「逃避行・完全体」といった様相であった。真っ赤なライトに包まれるステージ、鮮烈に駆け巡る黄緑のレーザービーム。「立ち止まった君をずっと待っているのに」のあとに鳴る、あのギターの音色に骨抜きになる。

逃避行の本邦初披露は1月、ここZepp Sapporoだった。あれから約1年。歌、演奏、照明、観客のクラップ、すべてが本気で混じりあったこの日の逃避行は紛うことなき今年の集大成で、成長したね……って推し曲の晴れ姿にじんときた。愛娘の振袖姿を見た気持ち。

 

 

街を駆け抜けるずっと誰にも見えない自分が」と始まった『トウメイニンゲン』には強烈なデジャブがあった。1か月前のUMIMOYASU仙台公演、対バン相手のキュウソネコカミがサプライズでカバーした曲。この選曲が偶然なのか故意かはわからないけれど、今まで辿った道のりをうっすら感じてにやにやしてしまう。「目と目と手と手と人と人は」のところを楽しそうに口ずさむ隆児さんが可愛らしい。

 

 

『リリリピート』。康司さんは「くりくりかえす!」と語気を強め、「しょっちゅう しょっちゅう」の部分は歌唱放棄して観客に歌わせていた。しょっちゅう、の合唱と「ぱんぱんぱぱん」のクラップが元気よく揃うのを見てほほえむ健司さん。ライブの格好良さに手を取られるように、北海道の客特有の熱気が巻き起こってZeppの温度は上がる。演者と客のエゴが双方向にがっちり組み合ったとき、ライブは猛烈な爆発力を発揮する。一大キラーチューンのオドループなどでなく、リリリピートでそれが起きるのはなんだか嬉しかった。

 

 

ベースの康司さんをこよなく愛する私は、上手側でゆったり踊りつつも、対角線上の康司さんに目を奪われまくっていた。『シンクロック』で「今この日をこの瞬間を待ち望んでいた」と荒っぽくざかざか弾きながら歌う姿や、『ナイトステップ』の間奏でスッと手を叩いて手拍子を煽る場面に気づいたら見とれていた。遠くからゆっくり眺めたのは初めてだった。例えが気持ち悪いのは本当に許してほしいんだけど、数年付き合って家族も同然のようになっていた彼氏の仕事中の姿を見てドキッとするような新鮮なときめきがあった。

 

 

『ナイトステップ』と『NEON PICNIC』を繋ぐのは今年何度か観たけれど、毎度繋ぎ方が違うので何度でも息をのんでしまう。今回は原曲に近いアレンジだった。もう雪の降りしきる札幌で、この曲を一身に浴びているとなんだか、ぬるく甘い風の吹き抜ける夏夜に迷い込んでしまったような心地すら覚えた。「離さないで そらさないで このまま」と歌う健司さんに当たるスポットライト。艶やかなピンクに染まった横顔がくっきりと照らし出される。じれったく、時は止まる。

 

 

『対価』を歌い上げるとMCへ。「札幌の皆さん元気だけど、俺以外のメンバーがMCしても元気にできる?」と客席を沸かせる健司さん、"お兄さん" 感満載だった。

 

「誰からいく?札幌はじゃあ康司から」と指名された康司さんは、キメ顔で親指をぐっと立てる。

康「元気ですか!」

客「わーー!」

康「ポロッサの皆さん元気ですか!」

客「わーー……??」

六本木=ギロッポンのノリで札幌と言いたかったらしい。「すべった……札幌のことポロッサって言ってみたかってん」とニコニコ笑う康司さんに、兄はばっさり「その感性わからんわ」とツッコむ。喜来登(きらいと)というラーメン屋さんに地図を見ないで行けるようになったとも話していた。

 

隆児さんは「あんな、2019年いちばん気合い入ってるんよ」といつもと変わりないゆるゆるしたマイナスイオン全開の声で言う。すかさず健司さんが「えっ、隆児が?」と尋ねる。

「俺がいちばん気合い入ってるんよ。何故ならばな……このジャケット普通の衣装に見えるやんか?でもインナーがノースリーブやから」。そう言ってジャケットの左肩をつまみ、ノースリーブをチラ見せする。そのあと会話に紛れてぼそっと言った「袖なき子やから」が客席に拾われてウケていて、ちょっと嬉しそうだった。

 

北海道どう?と振られた武さんは「北海道はいいところたくさんあるよね。スープカレーとかラーメンとか、ジンギスカンとかラムしゃぶとか」と列挙する。羊が好きなんだろうか。

武「いいところたくさんあるけど、北海道はスタジオが安い!東京だとスタジオ1時間入って800円とかなのね。俺が昨日行ったとこは1時間300円で、バンドマンとか学生に優しいなあと思って」

康「えっ俺が昨日入ったスタジオ500円やったで」

武「うえ~い俺のほうが安い~!!(笑)」

遠征先で個人練習するリズム隊、ストイックさに余念がなくて謎にキュンときた。ちなみに健司さんは札幌駅のジョイフィットにいたらしい。

 

 

 

 

MCを挟んで後半戦。日頃セットリストを組んでいる健司さんは「後半戦はなにか工夫したいと思って。Zeppツアー4公演あるんやけど、1公演ごとにそれぞれメンバーが考えたセトリでやりたいと思います」と。

 

「札幌は三原康司」と告げられたとき、地元公演を推しのセトリで観れる嬉しさでどうにかなりそうだった。タオルで口を塞いで、北海道に生まれてよかった~~!と叫びたくなるのをこらえる。

 

 

三原康司セレクト1曲目は『FUTURE ICE CREAM』。このメッセージ性が強くて、かといってTOGENKYOやハローグッバイほどメジャー選手なわけでもない曲を康司さんが選んだの、ものすごくわかる気がする。VISIONに通ずる骨組みのようなものも感じる。この曲、ライブで聴くと「この先の夢の中」あたりにぎゅっと心臓掴まれてぼろぼろ泣けてしまう。

 

 

FUTURE ICE CREAMがメッセージ重視で選ばれたのだとしたら、次の『ディスコプール』は完全に音の気持ちよさ重視だろうなと思った。これのベース弾きたいだけでしょう。エゴ剥き出しで好き。グルーヴの波でひたひたに満たされたライブハウスは、「札幌のプールサイドは」に揺れる。

 

 

『KITAKU BEATS』『オドループ』と立て続くキラーアンセムゾーン、曲が最高なのはもちろん、わちゃわちゃ絡みながら演奏する4人がひたすら楽しそうで微笑ましい。というか楽しすぎてブチ上がっていたので、曲や演出についてなにも思い出せない。

 

みんなそれぞれこぞってドラムセットのところへ遊びに行っては、武さんとにこにこアイコンタクトを取っていた。康司さんなんか『オドループ』のイントロでドラムセットの後ろ(横だったか)でしばらく弾いていた。隆児さんはインナーのタンクトップを、わざわざ健司さんに見せびらかしにいっては曲中に笑わせていた。

 

 

最後は『イマジネーション』。首筋を撫であげられるようなあのイントロが鳴って、これからこの暴力的でもある曲に殴られるとわかって、わかってるのに、ギラギラと飢えながら艶っぽくひずんでいくこの新曲からまるで目も耳も離せない。打たれるとわかっていて両頬を恍惚と差し出すほかなかった。そんな曲だ。ほんとうに。

 

獲物を前にした肉食動物のように瞳を鋭く光らせる健司さんは「さあイマジネーション イマジネーション」のところで合唱を煽る。「そんなもんじゃないよね?」って何度も何度も。爆音で鳴る間奏に掻き消されながらも、いつものオラオラ煽る感じともまた違う、フロムナウオンの椎木知仁みたいなものすごい熱量で叫んでいた。「俺たちはいつだってこうやってやってきた」「回って 回って 回って」「俺たちはいつだって今が1番かっこいい。10年やってきて今日、Zepp Sapporo、"今" が1番かっこいい」。迫真した叫びが、渦巻く爆音を掻き分けながら途切れ途切れに届く。

 

光駆け巡るネオン管、くるめく照明と、いまにも燃え尽きてしまうんじゃないかというぐらい全身で掻き鳴らして弾いて叩いて命を絞るように歌って、客席にすら背を向けて、4人向かい合って混ざり合うディストーション、メラメラと炎が燃え盛るようなさまを、ただ「イマジネーション イマジネーション」と曲に合わせて叫びながら見ていることしかできなかった。観客ですら入り込めない領域で命が燃えている。と、曲も終わりきらないのに、両側から黒い幕が引かれていった。ゆっくり閉じられた黒幕の向こうで、まだ熱く歪んだ演奏とフェイクが響いてくる。

 

本編は、幕の向こう側でフィニッシュを迎えた。

 

 

 

 

 

訳がわからなかった。怖かった。スクリーンのように、幕にはバンドロゴと「FRDC」の文字が映し出され、ピンクと緑の光が星のように瞬いている。今まで何を見せられていたんだろう、とゾクゾクして、呆けたようにただ立っていることしかできなかった。

 

怖かったのは、このままアンコールなどしないのではないかと思ったからだった。圧倒的な格好いい曲で殴ってなぶって、このまま突き放されて終わるのではないかと思った。

 

 

だから、

 

「FRDC」の文字が「FAB」に変わった瞬間、アンコールをやってくれる嬉しさと、これからまたとんでもないことが起こる予感とで、息ができなくなりそうだった。

 

 

 

 

 

フレデリック・アコースティック・バンド、通称「FAB」。FAB編成を生で観たことは今までなかったので、ツアーに組み込んでくれる嬉しさに震えた。

 

幕が開くと、アコースティックセットに着く4人の姿があった。左から健司さん、隆児さん、武さん、康司さん。アコースティックと言えど、武さんはドラムセットではなく電子パッドの前に座っている。新しいものをどんどん取り入れて既成概念の枠を壊すフレデリックらしさを、わかりやすく目の当たりにした。

 

 

アコースティック編成、アンコール1曲目はなんと本編の1曲目でもあった『VISION』。原曲のEDMっぽい良さとはまた違って、音の粒ひとつひとつ、声のしなるニュアンス、歌詞の意味が改めてくっきりと際立つ。1番、「その目で確かめて」と音を変えて歌うと、サビにはいかずそのまま2番の頭へ繋ぐ。同じ曲でこんなにも表情が変わるものだろうか。

 

 

編成はそのままに『夜にロックを聴いてしまったら』。イントロはなく「夜にロックを聴いてしまったら 春がはじまった」とアカペラで歌い出していたはず(違ったら教えて)。底を支える音に歌を乗せていくバンド編成とは違い、アコースティック編成だと歌に音を肉付けしていく形になるため、メンバーはしきりに健司さんを見ながら音を取っていた。ただ楽器とアレンジが変わるだけじゃなく、ぴったり息も合っていないと出来ないことなんだと気付いた。最後も確かアカペラで「夜にロックを聴いてしまったら」と、原曲にはない部分を付け足して終わった。

 

 

これで最後かと思ったら、袖からスタッフさんたちが出てきた。アコースティックセットを素早く片付け、一瞬でバンドセットを運び込む。目まぐるしい早業で、健司さんも自分でマイクスタンドを設置していた。

 

 

アンコールラストは『終わらないMUSIC』。メンバー全員で手拍子を煽る姿を初めて見て、ああこれはみんなと共有したい大事な曲なんだ、と思った。武さんなんて立ち上がって手拍子していた。手拍子をもビートに組み込んで曲は始まる。「正解はどこにある」だけでなく、「変わらない歌を」のところもエフェクトがかった康司さんパートになっていて震える。

 

『終わらないMUSIC』の初披露がどうして横浜アリーナ、「終わらないMUSIC編」ではなかったのだろうと一瞬思った。でも、考えるほどこれしかない。「VISION編」の最後にこの曲を持ってくることで、来年2月の横浜アリーナ、「終わらないMUSIC編」とを繋ぐ橋渡しをしたのだろう。今年4月から4シーズンにわたって架けてきた最後の橋を、いま、この曲で渡し終える。

 

明日の空に歌おうよ MUSIC」。

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:bloomsky:20191118000901j:image

ステージに張り巡らされたネオン管、終演後「MUSIC」になってたの震えちゃった

 

 

 

 

喜来登 (きらいと) - 資生館小学校前/ラーメン [食べログ]

康司さん行きつけのラーメン屋さん。ネギがヤバいなと思いつつ後日食べに行ったら、あっさり一瞬でなくなって綿菓子かと思った


f:id:bloomsky:20191211021513j:image

 

 

 

 

VISION

VISION

 

 

VISION編」というツアータイトルの意味を思い知ってずっと打ち震えていた。あのモニターを、ネオン管を、幕でいきなり断絶される視界を、そこに映し出される「FRDC」が「FAB」に変わる瞬間を、1秒たりとも見逃せるわけがなかったんだ。1秒たりともフレデリックから目を離せるわけがないんだ。余所見しててもまた強引に引っ張ってくれるんだろうから、いつまでも愛させていてくれよ。

 

ボロボロと涙が止まらないのは

右手にボイガルのフライヤー、左手にカイロを握り締めてライブハウスから駅までの道を歩く。来場特典でもらったポスターカレンダーの先っぽがビニールから飛び出していた。熱いライブの余韻で寒さなんて気にならない、と言いたいところだけど、氷点下の北海道をロンTだけでうろつくのは道産子といえど厳しいものがある。氷の張った路面をスニーカーで器用に歩く。終演後に引き換えた一番搾りを飲み干してかるく火照った頬が、刺すような夜風を受けて冷えていく。

 

THE BOYS&GIRLSは、熱い。細っこい身体に肌着みたいな白いTシャツをまとって(この日はマッキーで「遠くない未来まで」という文字が書かれていた)、自分以外のメンバーが抜けても泥臭く戦い続けるシンゴさんは、いつだって熱い。初めて聴いた新曲から幕を開けたというのに、なんだか涙がこぼれて止まらなくなった。頭で考えるよりも先に、涙が感情を追い越した。泣きながら笑いながら拳を突き上げずにはいられなかった。格好よかった、格好よかったんだ。ダイブしたはいいものの客席の勢いが凄すぎて「こわい!こわいよー!お母さん!」とオンマイクで言うシンゴさんは最高にダサくて格好よかった。

 

ボイガルと同じく私も北海道に生まれ育っている。地元に誇りをもっているボイガルが眩しすぎるぐらい、私は北海道に生まれたことがコンプレックスで仕方ない。好きなバンドもお店も文化も何もかも来てくれない北海道という場所に生まれたことを22年間何度も何度も何度も呪ってはそのたびに悲しくなった。だけど、だけどね、歌の情景に織り込むぐらい北海道を愛して、ツアーのどこでもやらなかった『札幌』という曲を今日この日に持ってきてくれたボイガルを見ていたら、ああ私も北海道っていう大好きな土地にいることちゃんと胸を張れるようになりたい、愛したいって、そう思えてなんだかまた泣けた。2019年、ライブ納めがTHE BOYS&GIRLSで本当によかった。

 

「ボロボロと涙が止まらなくてもカーテンを開けてみたい そう思えたのはあなたがやってるロックバンドが優しかったから」

 

「あなたがやってるロックバンドがいてくれてよかった」。

 

 

階段に座って

階段に座って

  • THE BOYS&GIRLS
  • J-Pop
  • ¥150

 

机上に踊る

グラスのなかの梅と目が合う。比喩でもなんでもなく、ソーダの底に沈めた酒浸しの梅と目が合う。梅酒ソーダと筆の捗る、夜でも朝でもない気だるい時間。そんな時間に学問がことさら捗るのはタイムラインが動かないからだと性根の腐ったツイ廃は思う。モダニズムがどうとかフロイトが何を提唱したとか、普通に生活していくうえではなんの役にも立たない教養という贅沢を頬張るとき、知識欲に脳は震える。勉強することは嫌いだけど学問は好き。大学に行くのは嫌いだけど大学はとても好き。それと勉強中は音楽を聴くことにしているので(無音だと落ち着かない)頑張るほどに教養と音楽をいっぺんに摂取できて楽しい。机上で空論をこねくり回すのは大好きだから、今宵もアルコールと手を取っていざ机上のダンスフロアで踊る。

とりあえず

気付け代わりに啜るコーヒーの湯気が眼鏡のレンズを曇らせて、普段から眼鏡のひとは大変だろうなと思う。卒論を書くときだけ、ブルーライトカットする眼鏡を掛けるようにしている。目の疲れ具合がすこしは違う気がする。一生裸眼でいるためにPC眼鏡を掛ける、人間臭い本末転倒さを私は案外愛している。

 

鼻と耳の悪さについてはもう生まれつきなので諦めているけど、視力の良さだけはどうにか守り抜きたい。母がものすごく目が悪いため、ゲームは1日1時間までだったし、少しでも暗いところで本を読むとたしなめられた。それを無視していた弟はかなり目が悪く、きちんと守った私は裸眼で過ごせているので、なんとか大切にしたい。それにしても眼鏡というのは鼻の付け根が痛くなる。

 

ジンジャーハイボール、ふんだんにわさびを溶いたざるそば、ハッカのドロップ。今までそんなに得意でなかったこれらのものを、味覚が変わってきたいま摂取したらどうなるのかと試してみて、あまりに美味しくて脳天突き抜けた。苦いものや薬味やミント系が好きになってしまったいま、私の味覚には死角がない。なんかちょっと韻踏んだ。

 

とりあえず1杯目は生で、2杯目からはめちゃくちゃ好きって訳でもないレモンサワー(どこでも置いてあるし当たり外れが激しくないし度数弱いし食事に合う、総合的に都合のいい飲み物だから)を頼んでいたけれど、こんな美味しいものがあるなら話は別だ。すっかり惚れこんでしまった。もうレモンサワーを都合よく扱うのはやめようと思う。

 

ジンジャーハイに想いを馳せている場合ではない。卒論の息抜きに書き始めたブログが長くなりすぎてしまったから、そろそろ2杯目の飲み物を淹れる。とりあえずのコーヒーはやめて、つぎは大好きな紅茶にしよう。甘くないやつ。

 

人伝いに、あまり関わったことのない後輩が私のことを尊敬しているのだと聞いた。生き方に感銘を受けているのだと言ってくれていたらしいその子のほうが、圧倒的に格好良く生きていると私は思うのだけれど(高校生のうちからあちこち留学に飛び回るようなアクティブな子なのだ)、なんとなく嬉しかった。

 

先日、仲良くしていたバイト先の子が退職した。今日シフト被る最後の日ですね、寂しいです、と言い合ったあとは何事もなかったようにいつも通り仕事をして、いつも通り締め作業をして、すべて終えて店の外に出ると少し並んで歩いた。仕事がキツくてもこうやって仲良く話せる人がいたから頑張れた、ということをお互い話しながら。最後の分かれ道に来て、じゃあ、と手を振る。雪景色のなかその子が笑顔で言った「あおさんと出会えてよかったです」という言葉を、いつまでも覚えておきたいと思った。私もそんなふうにまっすぐ、人に感謝を伝えられる人になりたいと思ったことも。

 

だれかの心の片隅にでも引っかかれるような人間でありたいな、なれてるかなあ、と思う。私が息をする過程で、だれかの人生に1ミリでも関わることができるなら、そんなに嬉しいことってない。いつだってあなたの心に残りたくて仕方ないのだ、明かりを灯せる人間でありたいのだ、だってせっかく生きてるんだから。

 

Sign

Sign

 

作品まとめ

レビューや小説など、ブログ以外のところに掲載された作品を一挙にまとめます。

随時更新していくのでお楽しみに。

 

 

【目次】

 

 

 

 

  • 「スーパースターになっても ーback numberの東名阪ドームツアーに寄せて」(2017/12/20)

スーパースターになっても – back numberの東名阪ドームツアーに寄せて (あお) | 音楽文 powered by rockinon.com

 

「音楽文」にて、back numberに関する文章。2年前の。まだ文が若いけど、あの頃だから書けた文章だなと思う。『スーパースターになったら』と併せてどうぞ。

 

スーパースターになったら

スーパースターになったら

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255

 

 

 

 

 

 

  • 「ミッドナイトグライダー」(2019/6/10)

 

DĀ(Twitter:@mos_cosmo)さんによる「#わたしのTOGENKYO」という企画に参加した作品。

 

フレデリックのミニアルバム「TOGENKYO」収録曲のなかから選んで、絵でも文でも歌でも好きな表現で "わたしの" TOGENKYOを作っちゃおう、というナイスな企画第1弾。私は『ミッドナイトグライダー』をもとに小説を書きました。

 

ほかの参加者の方々の作品もほんとうに素晴らしいので、ぜひツイッターで「#わたしのTOGENKYO」検索かけてみてください。

 

 

#わたしのTOGENKYO 取扱説明書|DĀ|note

↑企画の概要はこちら

 



 

 

 

 

  • 「夏の船」解説(2019/6/13)

 

DĀさんによる短編小説「夏の船」に解説を書かせていただきました。解説といえども我ながらよく書けたし、なにより小説が最高なので読んでください。

 

 

 

 

 

 

  • フレデリックを聴いてしまったら ー『フレデリズム2』に彩られ、春」(2019/6/28)

 

「ROCKIN' ON JAPAN 8月号」、JAPAN REVIEW欄にて。フレデリックのアルバム「フレデリズム2」の全曲ディスクレビュー。見開き2ページたっぷり書いたのでよろしくお願いします。まだAmazonで買えます。私史上いちばんの力作。

 

 

bloomsky.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 「レプリカパプリカ」(2019/8/27)

 

「#わたしのTOGENKYO」企画第2弾、『レプリカパプリカ』をテーマにした小説。執筆中、「あなたは変わるか? 新しい「今」を作るわ」という歌詞に背中を押されて、表紙の絵も自分で描いてみたのはちょっとしたこぼれ話です。

 

レプリカパプリカ

レプリカパプリカ



 

 

 

 

 

 

  • 「一世一大事」(2019/9/9)

一世一大事 | 章詳細 - monogatary.com一世一大事 | 章詳細 - monogatary.com

 

「monogatary」という小説投稿サイトにて、「復讐する女」をテーマに書いた小説。後味の悪さぶっちぎり。

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 「ぺトリコール」(2019/9/26)

ぺトリコール|ぺトリコール|NOVEL DAYSぺトリコール|ぺトリコール|NOVEL DAYS

 

「NOVEL DAYS」という小説投稿サイトにて、ズーカラデルの『生活』という曲をテーマにした小説。曲やズーカラデルの音楽性に添ったゆるやかなラブストーリーです。

 

 

生活

生活

  • ズーカラデル
  • ロック
  • ¥250

 

 

 

 

 

 

今年なかなか頑張ったね。9月以降は何してたの?って話だけど、来年リリース予定のものを3つか4つほど用意してる最中なので震えて待っててください。どれも絶対に最高なので。

 

 

 

f:id:bloomsky:20191124204234j:image

レプリカパプリカ加工前ver

 

ミトコンドリア

親友を久々に部屋に呼んだ。家は近いのに、大学生になるとじゃあ実家で遊ぼうかという話にはあまりならなくなる。高校生のころは学校帰りにそのまま招いて、親友の門限ギリギリまで遊んでいたことを思い出した。

 

旅行の計画を練ったり、スピッツのバンド名の由来を調べたり(ベーシストが実家で飼っていた犬からとったという予想は大きく外した)、生物の問題集を解いたり、ルマンドを食べながらだらだらとあらゆるテレビ番組を観て過ごした。Eテレで始まった海外のアニメが思ったよりも鬱展開で、きかんしゃトーマスの平和さに救われた。トーマスって洗脳済み社畜だったんだ、と大人になってから見ると新たな発見もあった。こんなにも正解な "日曜日の午後" の過ごし方ってあるだろうか。なんにもないけど満たされている、こういうくだらない日のことほど大切にしたくなる。

 

ふたつ並んだ空のグラスと、きちんとビニール袋に突っ込まれたルマンドの空き袋が、なんだかさみしい。

 

日曜日

日曜日

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255