あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

長いトンネルを抜けて

ハンブレッダーズを観たいがために行った4バンド合同のイベント。結局彼らのステージしか観なかったのだけど、あの泥臭く煌めく40分にだって2500円のチケット代じゃ安すぎた。

 

HTB主催の夢チカライブvol.140。140回も続いてきたこのライブイベントは、12月に閉店が決まっているKRAPS HALLというライブハウスで行われてきた。閉店してしまったあとも形を変えて続いていくのか、ともに幕を下ろしてしまうのかはわからないけど、これが最後のKRAPS HALLなのかあと感慨深くサワーを飲んでいたら思ったよりも酔いが回った。ロビーのようなところで、氷で薄まった酒の残りを飲みながらビレッジマンズストアとtetoの音漏れをぼんやり聴いた。フロアに通ずる扉が開くたびに重厚なビートがなだれ込んでは心臓を揺らした。

 

tetoも終盤に差し掛かったころにすべりこんだ。転換時には本人たちが現れ、てきぱきと楽器をセットしていく。去年の冬のことを思い出していた。私がハンブレッダーズに一目惚れしてしまったのは、去年の夢チカライブだった。あれから吉野さんがサポートギターに降格するという異例の事態を乗り越えつつも、好きになったきっかけのイベントでまた彼らを観られることが嬉しくて仕方なかった。

 

初めに(もう中盤だけど)言っておくがこれはライブレポではない。ただライブがあった日の私の日記であるので、レポを読みたい人はここで閉じてほしい。4人が3人になっても、メジャーデビューを控えても、元メンバーを含む3人のサポートギターをローテーションで回すという特殊な形態になってもなお、ハンブレッダーズはハンブレッダーズだった。メジャー初フルアルバムに収録される新曲を演奏しても、変わらずに彼らはハンブレッダーズだった。

 

半年前に観たワンマンライブで、彼らはまだ4人だった。『ミッドナイトフリクションベイビー』のギターソロを破天荒に弾き倒す吉野さんの姿が、正規メンバーとして観られた最後だったなんて信じたくなかった。『弱者の為の騒音を』で、「頭の悪いギターで鳴らしてやるよ」とムツムロさんが吉野さんを指差すシーンが、吉野さんの頭の悪いギター(もちろんこれは盛大な褒め言葉)が大好きだった。

 

解散も脱退も免れ、サポート降格という形で柔軟に存続し続けているハンブレッダーズが大好きで、最善の形だとわかっていて応援もしているのに、わかってるのに、頭の悪いギターを掻き鳴らす吉野さんがいないことにどうしようもなく気付かされてしまって苦しくなった。たぶん失恋ってこんな気持ちになるんだろうなと思った。でも、天井に届きそうなほど高くギターを掲げる永田さんを見て、いつも通りに楽しそうに音楽と向き合うメンバーを見て、どんどん解きほぐれていった。

 

ライブで初めて聴いた『銀河高速』。「続けてみることにしたよ 走る 銀河高速」という初っ端の歌詞でもう、駄目だった。続けることにしてくれただけでこんなにもありがたいのに、今こうやってハンブレッダーズを観られるだけで奇跡なのに、勝手にうじうじ感傷をこねくり回していた自分が馬鹿みたいだ。馬鹿だった。「見て見ぬフリしてきた現実に押し潰されてしまいそうな夜だった 心にもない言葉が出る ここが潮時かもな」。ギターの吉野さんが仕事に専念するためバンド活動を続けることが難しくなって、脱退するなら解散しようか、となってしまう所だった。それでも続ける道があるのではないかと考えて考えて、サポートで支えるという前代未聞の案を見出して、「長いトンネルを抜けて まだ歌いたいと思っていた」、こうしてまだステージに立ち続けて、メジャーという大きな始まりの入り口に立たされていま「この夜の向こうまで 走れ 銀河高速」なんて歌っているわけだ。

 

これが最善策だとわかっていてもまだ私は吉野さんのいない下手や3人しかいないアー写に胸を痛めてしまうのだろうし、サポートすら続けられなくなってしまうことにいつまでも怯えてしまうのだろうけど、でも、どんな形になってもまだ走り続けたいと格好いい背中を見せてくれるハンブレッダーズのことをずっと信じて愛していたい。そう思った夜だった。ハンブレッダーズがあまりにも格好良くて、彼らのステージ以外にもう何も入れたくなくて、結局ハンブレしか見ずに余韻ほやほやのままKRAPS HALLをあとにした。終わる兆しの無い旅がいつまでも続くことを願いながら帰りのバスで再生した『銀河高速』が、車窓から見る景色に溶けていった。

 

 

 

 

【セットリスト】

  1. ‪口笛を吹くように‬
  2. ‪DAY DREAM BEAT‬
  3. スクールマジシャンガール‬
  4. ‪ブランコに揺られて(新曲)‬
  5. ‪CRYING BABY‬
  6. ‪常識の範疇‬
  7. ‪弱者の為の騒音を‬
  8. ‪銀河高速‬

脇役たちに最大級の

UNISON SQUARE GARDENがどうしようもなく好きだな、と最高だったライブの余韻を握りしめながら思う。「来年もどうせツアーやるだろうし」って何気なく言ってくれたひとことがどれだけの灯りになりうるかなんて、あなたたちは知らなくていい。ただステージ上で、歌とギターとベースとドラムと、四重奏を鳴らしていてくれたらそれでいい。

 

ホールでもライブハウスでも関係ない、3人がいて観客がいれば、どこにだって完全無欠の箱庭は出来上がる。そのことを音楽だけで魅せられた。予定調和も一体感も彼らの前では意味を成さない。拳を上げて跳ねずにはいられない衝動が、身体を突き破ってひとりでに飛び出す。「それでもふぞろいに出そろった心ステンドグラスはキレイだろう?」と歌ったあの曲がふと頭をよぎる、これはB面曲ではないのでもちろん今回はやらないのだけど。

 

ニゾンを観ているとき、なにも考えられない。楽しすぎて。ほかの観客なんてどうでもいいし、自分のことすら、過去も未来もどうでもいい。ただ目の前にユニゾンがいて、ここに私がいて、この場所で今という時間が流れているのならば、それだけで充分だと思う。他にはなにもいらないのだ。3人、私、今、ここ。「最小限で十二分」。

 

いつもなら長々と詳細なライブレポを書き連ねているところだけど、今回に限ってはこの楽しさを書き留めておくことよりも独り占めしたい気持ちが強いので、しない。独占欲が強いものでごめんなさいね。ライブ後、ビールを無性に欲しつつも、体調が芳しくないのですだちソーダで乾杯した。それでもアルコールなんていらないぐらい満ち足りて、脳みそが幸福にじんじん痺れている。ああ、素敵な夜だったなあ。完全無欠のロックンロールを鳴らしてくれる私の大好きなバンドは今日も格好よかった。

 

レッサーパンダじゃない

私じゃなきゃダメ、じゃなきゃヤダ。誰にでも紡げる量産型の言葉なら私じゃなくて工場ででも作っちゃえばいい、誰でもいいからとりあえず私の手を掴んだのなら今すぐ振りほどいて他を当たってくれ、オンリーワンもナンバーワンもどっちも欲しいからまた脳味噌が沸騰しそうに茹だってる、グラグラ煮立つ私の激情を万人にわかってほしいなんて思わないけど私に愛される覚悟があるなら肚を決めなよ、誰にでも優しくなんてしないから物珍しさに近づいてなんて来ないで、見世物じゃないし。ペットボトルに詰められた天然水は透き通るまでに土砂を濾して濾過していることを、不純物を取り除いて透明に見せていることを、きちんとわかっているあなたと話がしたいと思うから、紅茶が冷めるまで隣にいてね。

 

You're So Sweet & I Love You

You're So Sweet & I Love You

  • [Alexandros]
  • ロック
  • ¥153

 

ブレンドホット

「コーヒーを美味しく飲めるようになったら大人」なんて昔は思っていたけど、「コーヒーを純粋に楽しむためでなく、時間潰しのために頼むようになったら大人」なのではないかと大人に差し掛かったいまは思う。そんなことを言っているいまだって、クリスピークリームドーナツのイートインでブレンドを飲みながらこれを打っているところ。カフェに居座る時間潰しのためのコーヒーを頼むようになったのはいつからだろう。大好きな紅茶じゃなくて、どこで飲んでもハズレのないコーヒーを頼むようになったのは。だからどうってわけでもないが、くだらない大人にはなりたくないよね、と思う。惰性とか、なんとなくとか、そういうのにがんじがらめなつまんない大人には絶対に。そう思ったので、「ドーナツにひとりでかじりつくのがなんとなく気恥ずかしいから」という理由で今まで来たことのなかったクリスピードーナツに初めて来た。変な羞恥心のせいで諦めてしまうのは何事ももったいないのだ、オリジナルグレーズドにひとりでかぶりつくといったなんでもないようなことであっても。もうブレンドを飲み終えるので帰る、帰ったら本のつづきを読もう。

 

SPAM生活

SPAM生活

 

邂逅譚

初対面は雷門、お互いの顔も知らなかった。

 

北海道とは違い、東京はそこかしこで金木犀の香りがする。用事を済ませた私は都営浅草線に飛び乗った。少し暑いのも気にならなかった。知り合って半年ほども経つフォロワーにようやく会えるのだ。便宜上フォロワーとは言ったけれど、友人というかライバルというか相棒というか、彼女とはとにかくそういう関係である。本名も声もどんな文字を書くのかも全部知っていたのに、初対面だけがまだ済んでいなかった。なんつーバグ。

 

人力車の客引きと幾多の観光客にごった返す夜の浅草寺で、顔も知らない相手を探した。私にしたって黒髪だということしか教えていない。だけどなんだか会えばすぐにわかるような気がしていた。一瞬、人探しをしていたらしい女の子と目が合ったけれど、お互いに(こいつではない)という視線を交わして離れた。見つければわかる自信はあったが、案外探すのは困難だった。

 

いやなんかもう緊張どころじゃない、無事に会えるのだろうかと思いはじめたとき、ふとある人のブーツに目が留まった。あっ、と思った。靴、ボトムス、トップスと徐々に見上げていって、顔を見る前にもうこの人だという確信があった。

 

ライトアップを受けて赤く輝く雷門、溢れ返る人波、時が止まったような出会い、頭のなかでは『逃避行』が流れていた。

 

 

密度の高い半年ほどの交流を経て、ようやく私たちは初対面を果たした。

 

 

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仲見世通りを並んで歩く。初めて会った人の隣を歩いているのは不思議な気分だったけれど、十年前から知っていた気もする。こんなこともあるんだなあ、と思っていた。生まれ育った場所や環境も年齢も違うのに、導かれるように出会ったこと。こうして並んで同じ景色を見ていること。夢のなかを歩いてるみたいだ。

 

フィーリングで参拝をすると、ふらっと見つけた居酒屋で乾杯した。モツ煮込みがめちゃくちゃ美味しかった。好きな人間と飲むビールはもっと美味しかった。懐メロばかり流れる居酒屋の隅でひそやかに、ありとあらゆるワクワクする話をした。

 

カラオケに行って、ホテルにチェックインして、また部屋で呑み交わす。私が浅草寺で手を合わせてなにを願ったのか、黄緑色の部屋で私たちがなにを話したのかは秘密だけど、なんだかビックバンでも起こせちゃいそうな気がしていた。

 

赤い夜も青い昼でもいつでもどこでも、私たちが揃えば超新星爆発のひとつやふたつ起こせる。そんな気がした。してる。いつか燃やす世界の真ん中に座りこんでふたり黒ラベルを飲んだ。尽きることのない話と私たちを結ぶ音楽とが混ざり合って夜に溶けた。これから紡がれていく長い物語の、プロローグのような邂逅だった。

 

ねえ、退屈な世界になんて、笑って火を点けてしまおうか。

 

 

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終日どこにも出掛ける予定がなかったので朝っぱらから餃子を食べた。柚子胡椒もつけた。課題図書に飽きたら小説を読んで、それにも飽きるとノートをつくって、またまた飽きのサイクルがくると小説を読んだ。普段聴かない音楽を取り込みたいと思ってサカナクションCreepy Nutsを流してみた。フォーマルな学問とEDM、牧歌的な小説とラップ、ちぐはぐな無秩序さが妙に良かった。いまは途方もないインプットのタームにどっぷり浸かっているのだと思う、聴いたことのない音楽と読んだことのない本と行ったことのない場所と、どんどんどんどん、余すことなく吸収して私の血肉になればいい。なんでもかんでも丸ごと飲み込んで下す人間にはなりたくないの、好きも嫌いも咀嚼して味わったうえで星を付けたいといまは思ってる。こうやって地面の下に潜って、すべてのものを取り込もうとしている期間がないと羽ばたけもしないわけで、必死でこさえた踏切板にも気づかないで高く跳べていいねなんて指くわえてるのなら一生見物席で見ときなって思ってるよ。きっと沸々とした気持ちでいるのはホルモンバランスのせいだから、温めた豆乳でも飲んだら湯船に浸かることにする。

 

よふかしのうた

よふかしのうた

 

ローリング

クラフトボスの甘いほうとイヤホンから流れるTHE BOYS&GIRLSをお供にしてキーボードをひたすら叩く、生まれてこのかた視力は良いけれどブルーライトをカットする丸眼鏡を掛けているから、たまに画面にオーガニックとチルミュージックを好んでいそうな女が映って笑ってしまう。たとえ課題であろうと書かなくてはいけないと思ってしまうと途端に文章は色褪せてしまうので、書くことは楽しいなあって自分をちょっとずつ騙しながらエンター、デリート、シフト、スペース。救いにも呪いにもなってしまえる強い言葉が欲しい。花束も銃口もいっぺんに手向けちゃいたいのだ、鮮やかな花弁で脳天ごと撃ち抜いてしまいたい。数ヶ月ぶりに会った親友が根拠もなく「あおはそのうち絶対なにか大きなことを成し遂げると思うよ」と突然言い出したことを、なんとなく信じたくなったりしている。楽しそうなことに「楽しそう」という理由だけでえいっと飛び込めば物事は案外良い方にだけ転がっていく、それを実感しているところ。朝が明けきってしまう前に無事眠れたなら帰りにビールを買おう、発泡酒じゃなく。

 

せーので歌うバラード

せーので歌うバラード

  • THE BOYS&GIRLS
  • ロック
  • ¥250