締め切りに追われる間に夏のピークが過ぎていた。いまぐらいの、暑いし汗ばむけれどインナーがびちゃびちゃにはならないぐらいの、ハンディファンがしっかり涼しく機能するぐらいの、このぐらいが「夏」をストレスなくやっていけていい。
この夏、ずっと旅行エッセイの本を作っていた。ブログに載せてきた旅行記をメインに、でも大幅に書き換えて。ここには書いていない最近の旅の話もある。時が来たらそっと宣伝するので、見守っていてほしい。
ぶじ入稿を果たしたとき、疲れきっていた。竜田揚げと揚げるだけの春巻きを買い、かろうじてサラダだけつくる。夏が終わりそうなことにあわてて買ったみょうがと大葉、トマト。検索すると、ポン酢とオリーブオイルと砂糖で和えるレシピがでてきた。
うちの食卓には、あまり甘い味付けのごはんが出ない。われわれ夫婦は醤油かブラックペッパーの味が好きだから、必然的にそうなる。甘めのちゃんちゃん焼きとか酢の物とか、嫌いではないけど好んでは食べない。いつもなら砂糖抜きでつくるが、疲れすぎていて、何も考えずレシピに従った。
「なんかこれ甘いね」と夫が不可思議そうな顔をする。「おいしいんだけど食べ慣れないというか……」というので、改めて味わう。たしかにおいしい。でも知らない味がする。私からは出てこない味。よそのうちでご馳走になるごはんの味がする。私がつくっているのに不思議。見慣れた食卓によそのうちのサラダ。砂糖ひとさじでこんなにもアイデンティティは揺らぐ。