あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

水面ひときれ

エアコンのない温室のような自室と、エアコンはあるけれど家族に無限に話しかけられてひとりの時間が持てない居間。そのどちらにも疲れて適当な装備で飛び出すこと、この夏は何回かあった。近所のパン屋でコーヒーだけを買うのは忍びないから、塩パンとアイスコーヒーで210円。それさえあれば公園のベンチに2時間ほど居座れる。噴水の音、中学生が球技をする音、時折おじいさんに連れられて散歩している犬の鳴き声、それぐらいしか聞こえないので心が安らぐ。話しかけられるたびに一時停止をかけて全然集中できなかった映画の大団円を観る。トートに突っ込んできた連作短編集を1章読む。思い出したように啜るアイスコーヒーは遅遅として減り、陽が落ち、噴水の稼働が止まる。家に帰るとやかましく責め立ててくる女房に疲れて、サラリーマンが喫茶店で休日を過ごす理由が、なんとなくわかる。暗いレイヤーがかかり始めた空に、薄く半月が浮かんでいる。あんなに涼しそうに煌めいていた池の水面は抹茶羊羹みたくどしんと深い緑をしている。暗くなったからでも涼しくなったからでもなく、飲み干したアイスコーヒーが膀胱を刺激してきてはじめて帰ろうと思う。