あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

海沿いをあるく

ひとりで海をみにいった。砂浜で走るでもなく、膝までじゃぶじゃぶ浸かるでもなく、ただ潮風に髪をなびかせながら海をみるのが好きだ。海にちなんだ名前を与えられて生まれた私は、きっと海を好きになると初めから決まっていた。

 

もうマフラーのいらない季節といえども海風はつめたいから、あらかじめ巻いてきたストールを固く結びなおす。ホットレモンをコートのポケットにしまって海岸沿いを歩けば、バイクを停めて黄昏れるライダーや、夕日を背景に自撮りするカップル、アコギを爪弾く青年など、春の海には案外いろんなひとがいる。

 

ひとけのない辺りまで行き着くと、腹の高さまである防波堤に登って腰掛けた。 ホットレモンを飲み、back numberの海岸通りを流す。髪を切ったあとに海に来るなんて失恋でもしたみたいだけど、今から同棲するにあたって故郷の海を懐かしむための、あかるいお別れのための時間なのだ、これは。

 

23年間過ごしたこの街のこと、大嫌いで愛してる。海のない新しい街は私の肌に馴染むだろうか。今は不安よりも期待のほうが強くて、実感もそんなになくて、たぶん、引っ越してしばらくしてから打ちのめされて寂しくなるんだろう。戻れないことはないけど、戻るつもりのない片道切符の旅。寒くなって防波堤を飛び降りたとき、少しよろめいて、かっこつけきれない感じがなんか私らしくてちょっと泣きそうになった。かっこわるくてもちゃんと歩いてみるから、見てて。