幸せの絶頂にいると自覚したとき、今この瞬間に死にたい、と必ず思う。本気で自殺願望があるわけじゃない。スポーツ選手がキャリアのピークのうちに華々しく選手生活を終えたい、と思う気持ちとたぶん同じことだ。それとは対極に、もうこの世の面倒くさい全てから解放されて楽になりたい、という意味で死にたいと思うこともある。でも本気で実行に移す気はさらさらない。ただ楽になりたいとじっとり思うだけで、飽きるまで泣いて寝れば大抵は収まる。物心ついたときから二種類の死にたさを奥底に抱えて生きている。でも口には出さないだけで本当はみんなそんなもんだろう。
面接を終えた足で連休に突入したばかりの彼氏と落ち合った。ベストは尽くせたし夕食は美味しくて、幸せでふわふわしていたのに、いざ眠ろうとするとPMS由来の絶望が全身にくまなく充満していった。健やかに眠る彼氏の手をそっと振りほどいて、音もなく泣いた。後者の意味で死にたいと思った。ベストを尽くしてまで今回も駄目だったら生きている資格なんてないと思って(そんなことはない)(PMSのせいで普段の50倍病んでいるから正常な判断ができていない)心から死にたくなって泣きつづけた。完全サイレントで泣いていたので彼氏は起きなかったが、手を離されたことには気付いて寝ぼけながら繋ぎ直してきた。この人と穏やかに歩めるかもしれないこの先何十年ものことを考えたら死ぬのが惜しくなった。流れ落ちた涙の溜まった両耳を雑に拭って寝た。
翌朝は5時半に起きてしまい、さすがにもう少し寝ようと次に起きると10時半だった。ゆっくり支度をして、適当に入った店でメキシコだかベトナムだかの料理を食べる。ユニクロでシャツを選ぶのに付き合わせ、ビッグカメラで高画質のテレビを見て回る横を歩いた。いちご大福とぜんざいを買って帰り、食べる前に力尽きて昼寝をすると今度はもう18時だった。悪くなるといけないから和菓子を食べて、すぐ夜ごはんも食べに出掛けた。長々書いたけどつまりは食っちゃ寝しかしていないのだった。骨の髄までだらけた完璧な休日だった。しあわせだった。今すぐ死んでもいいと思ったし、絶対80歳ぐらいまで生きてやるとも思った。ずっとこんな休日を一緒に繰り返して老いていけばいい。前者の死にたさばかりを抱えたままいつか後者なんか忘れ去ってしまえばいい。何とやらが人生の墓場だと言うのなら、狭いからもうちょっとそっち詰めてよなんて小突き合いながら同じ墓石の下に眠るのも悪くない。誰々が悲しむのがつらいから今はまだ死ねないなあと思ったことは何度もあるけれど、この人と生きたいから死にたくないと思うのなんてなくって、あのさ、責任取ってくれよな。