赤、水色、また赤、すぐに水色。鮮やかな照明がステージを目まぐるしく駆けめぐった。飛び跳ねる観客の背中と、熱をもって高く上がった拳のむこうで、軽やかにベースをさばくマイケルさんの姿が妖しく明滅している。頭の丸いシルエット、降り注ぐ赤、水色、あか、みずいろ、あかみずいろあかみずいろあかみずいろあか、心地いいサウンドがライブハウスいっぱいにひろがって、音と熱狂の洪水が押し寄せては私の頭のてっぺんから爪先までを甘く満たした。
幻だと思っていたのだ、夜の本気ダンスというバンドのこと。私と彼らはことごとく相性が悪い。今回ライブがあったmoleというライブハウスで、数年前、夜の本気ダンスを観ようとしたことがある。IMPACTというサーキットフェスで、彼らのステージは入場規制がかかっていた。やっと入れたのは最後の曲。立っていられるのがやっとなほどの人ごみで、彼らの頭すら見えなかった。もうド終盤に差し掛かっていた曲がなんだったのかもわからなかった。何もかもわからないまま彼らは袖に消えた。狐につままれたみたいだった。それが、夜の本気ダンスとの初めての出会いだった。
その後も何かのフェスで観ようとしては悪天候に疲れて出番前に帰ったり、ライジングサンは前代未聞の中止になったり、このあいだようやくワンマンを観ることに成功したけれど、遠い場所で見ていたせいかやっぱりなんだか蜃気楼でも眺めているような気がして、「夜の本気ダンスは幻だ」という思いが拭えなかった。
大学へレポートを提出しに行き、腹ごしらえにレギュラーバーグディッシュを平らげて、地下街のロッカーに荷物を預けてサコッシュを斜めがけしても、いざ入場して煙草の匂いがするロビーに足を踏み入れてもなお、これからライブがはじまる実感はなかった。ステージに置かれた楽器を見てもまだ、ほんとうに夜の本気ダンスが存在しているのかちょっと疑っていたと思う。
ぱっぱらっぱっぱ、とSEが流れて、深海みたいな深い青色のライトに照らされたステージに4人が現れてはじめて、「夜の本気ダンスは幻じゃなかった」と思った。私がラジコプレミアムにいじましく入り続けているのはラジダンを聞きたいがためで、毎週楽しみにラジオを聞いている人たちが目の前で楽器を構えているということが信じ難かった。疑り深くてごめん。
よく知っている、いつも聴いている曲たちが、目の前で鳴らされること。それが私の鼓膜や身体までもを揺らしていくこと。ライブって、すごい、と思った。当たり前になりかけていたそんなことに新鮮に感動した。キャパは450とコンパクトで、各楽器の音がダイレクトに全身を直撃する。ボーカル、ギター、ベース、ドラム、すべての音がくっきりと粒立ちながら、それでも混ざりあったときに生まれる心地いい波。しあわせで上質な音楽体験をしているなあ、と思った。自然と頬がゆるんだ。自然と体は揺れた。何も考えずに本能で音楽を楽しめている、という感じがすごくした。楽しかった。
タイミングの問題でいつも蜃気楼みたいに掴めないから、夜の本気ダンスのこと幻みたいだって思ってた。でもさあ、こうやってほら、同じ時代に生まれて同じ空間にいて同じ熱を共有して私たちに夢をみせてくれてる。間違いなく音楽という共通言語でつながっていたこの一夜が幻だったわけはないんだよ。