あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

喫茶記

美術館にいこうと思ったが億劫になったのでずっと気になっていた喫茶店へ赴く。店内は満員で、そういえば三連休の初日だったかと気づいた。学校よりもバイトに行く日数のほうが多い大学四年生は曜日の感覚がどうもない。案内された窓際の席には、ランプや置物などと並べて読み古された江戸川乱歩全集が置いてあり、それだけでもうこの喫茶店のことを好きになってしまった。ゆっくり読もうと思って持ち込んだ春琴抄を、店のものと間違われませんようにと祈りながらおずおず開く。本の美しい装丁を隠してしまうという点でブックカバーがあまり好きではないのだけど、タイトルを隠したり汚れを防ぐためではなく、本が備え付けてあるカフェに持ち込むときのためにブックカバーを買っておいてもいいなと思った。紛れもなく私のものです、という意思表示として。まもなくチャイとチーズケーキが運ばれてくる。私には飛びつくように脊髄反射で頼んでしまうものがふたつある。メロンソーダとチャイである。なんとなく、外食のときにしか飲めないイメージがあるからというだけで、メロンソーダが思っているより甘ったるいこともチャイに最後は胸焼けしてしまうことも知っているのに、どうしても頼んでしまう。どっしりとなめらかの狭間をいくチーズケーキに感動しながら、カフェと喫茶店の違いってなんだろうなと思った。でも、アーティストと名乗るか歌手と称するかの違いぐらいしかないのかもなと思ってすぐ考えるのをやめた。ホットミルクの表面を覆う湯葉は忌々しいと思ってしまうが、温かいチャイのうえにやわらかく張るスパイシーな湯葉のことはなぜだか愛おしい。三十分おきに時間を知らせる鐘のようなものが鳴っており、二回目の鐘の音を聞いたところで店を出た。同じビルの隣のテナントには美容室が入っていて、ドアを開けた瞬間にカラー剤のツンとした匂いがなだれ込んでくる。嫌いじゃない。店舗型のもいいけれど、マンションみたいな古びたビルにこうして入っているタイプの喫茶店も好きだ。言うほどカフェ通というわけではないのだけど。こういう、当てどなく綴るとりとめのない文章もたまには。

 

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