フレデリックがゲストにキュウソネコカミを迎えた対バン「UMIMOYASU」in 仙台。
(前編、キュウソのレポはこちら→UMIMOYASU in 仙台 ~前編~ - あおいろ濃縮還元)
キュウソの出番が終わるとあっという間に楽器が撤収され、フレデリックの機材が続々設置されていく。さっきはなかったエフェクターボードやお立ち台が運び込まれ、同じバンドでも全然違うんだなってじっと転換タイムを眺めた。楽器とか全然わかんないけど違いを探すのは楽しい。
スタッフさんに紛れてしれっと武さんが出てきたのには驚いた。普通に来て、ドラムを叩いて音を確かめると普通に帰っていった。
後攻、兵庫は宝塚より、フレデリックのターン。
【フレデリック】
- 飄々とエモーション
- シンセンス
- スキライズム
- ビビった(キュウソネコカミカバー、1番のみ)
- ナイトステップ
- NEON PICNIC
- アウトサイドの海
- オワラセナイト
- KITAKU BEATS
- エンドレスメーデー
- オドループ
- VISION
En1. 夜にロックを聴いてしまったら
En2. イマジネーション
SEはシンセンス。「フレデリック、始めます」と健司さんの声が告げ、4人が現れる。
前編でも述べたように、キュウソのライブは今年イチを更新する楽しさだった。いくら大好きなフレデリックといえ越えられるのだろうかと思っていたけれど、「人生最高の夜にします」と言って始まったライブが最高にならないわけなかった。
初っ端から『飄々とエモーション』『シンセンス』と、主役級を張る曲たちを惜しみなく投下してくるフレデリックに、今宵の本気度を垣間見た。これは、本気で海を燃やすつもりだ。熱いライブのさなか、背筋がゾクッと凍る。
キュウソのステージで生まれた一体感は『飄々とエモーション』のコールアンドレスポンスにまんまと掻っ攫われた。塗り替えてやると言わんばかりのいいとこ取り。『シンセンス』、真上に飛ぶ健司さんと横にステップを踏む康司さんが対照的で良い。『スキライズム』、毎度ながら「あなたのそういうところが嫌いです」と笑顔でコーラスする康司さんに心臓わし掴みにされる。
と、先ほど聴いたイントロが流れる。『ビビった』のカバー。
本来セイヤさんが「よっしゃ来いやー!!」と叫ぶところ、少し溜めてから「…いける?」と言っていて腰砕けた。紛れもなくこれは三原健司の、そしてフレデリックの『ビビった』だ。
最初、心なしかタクロウさんに寄せたベース(音色ではなく、表情や動き)を弾いていた康司さんは、自分でおかしくなったのかすぐやめてニコニコ笑っていた。さらにヨコタさんのパート、「ルーツがないとか言われても」「リスペクト パクリは同じかな?」も本家に寄せた感じでしっかりと歌う。それでも自分の色はきちんと保つバランス感覚。
「ファッションミュージック鳴らせないと生き残れないこの世界では 俺が何か叫んだ所でキャッチーじゃないと誰も聞かない」という曲をフレデリックがやるの、ものすごく刺さる。カバーは1番のみ。最後、健司さんは「ビクター」と歌い終えると「ビビった?」と笑った。ビビるもなにも腰砕けるから……。
「新曲『ビビった』でした。キュウソには『トウメイニンゲン』に引き続き『ビビった』までカバーして頂いて……」とジョークをかます健司さん。
袖にて、確かにフレデリックのほうが上手いな!と素直に関心する先輩たちに「いや、確かに上手いな、じゃない」と笑う。
健司さんは「6年前、神戸でヤバいバンドがいるぞと言われてて。どうやらライブで段ボールが出てきたり、筋斗雲に乗ったり、ヤンキーこわいって歌うバンドがいると」と話す。ざわざわと笑いが広がる。
「みんなが知ってるキュウソと全然変わってないでしょ?キュウソは昔からほんとに変わってなくて凄いんですよ。"付かず離れずメンヘラ" なんて歌詞がラジオから流れてきたり、みんなにとっては普通かもしれんけど、当時俺らにとっては有り得んかったから」
セイヤさんも「フレデリックはあのまま売れてすごい」と言っていたように、誰も開拓していなかった自分たちのスタイルを切り拓き、新たなスタンダードを打ち出したキュウソもフレデリックも物凄いんだなと改めて気づいた。どちらのバンドも互いを称えあいながら、それでも馴れ合わずライブは手を抜かない。理想の関係性。
「同じステージに出られるだけでも名誉だったキュウソに6年前、仙台のイベントに呼ばれて。そのとき俺らのお客さん4人しかいなくて、キュウソが集めたお客さんを前にライブやらせてもらって。いつか恩返ししますって言ってから1年経って2年経って、6年経って今日やっと叶います」
あたたかい拍手が起こる。感慨深いよなとしみじみ頷く健司さんに、康司さんは「やっと、やってやったな、って感じするな」と満面の笑みを浮かべた。そういう言葉を笑顔で選ぶのずるい。
『ナイトステップ』。しっとりと甘く濃い夜へ、4人の音色に手を引かれていく。歌に、音に、徐々に酔わされていくのがわかる。かなしいうれしいの健司さんみたいに、康司さんが間奏でスッと顔の横に手を掲げて手拍子を煽っていたの、なんか新鮮で良かった。オラオラ煽るのでなく静かに求める感じ。
余韻を残したまま『NEON PICNIC』へと繋いで夜を渡り歩く。最初はなんの曲かわからなかったけど「NEON PICNIC」と歌い出して卒倒しかけた。健司さんの艶めく声と、康司さんの透き通る声が交われば、ライブハウスに甘い風は吹き抜ける。
最後、「夜明け前の 向かい風の中」と歌う箇所。「向かい風~のな~~……」と伸ばし、健司さんは目をつむって上を仰ぐ。じれったい沈黙。張りつめた空気を味わうように目を閉じていた康司さんは、永遠にも思える沈黙のあと、健司さんが息を吸ったのを察知して「かぁ~~~~」と歌いきるところへ瞼を閉じたままコーラスを被せた。文字通り息の合った離れ業。
程よく凪いだフロアに妖しいイントロが鳴る。『アウトサイドの海』だった。理解が追いつかなくて、頭の芯がすっと冷えた。ステージを見上げれば「UMIMOYASU」というツアータイトルが掲げられている。
UMIMOYASU。海燃やす。
アウトサイドの海、燃やす。
背筋が凍った。さらに真っ赤な照明がステージをいっぱいに満たす。燃えるような赤い照明が。『アウトサイドの海』を赤く燃やすことで、「UMIMOYASU=海燃やす」を聴覚でも視覚でも観せてきたフレデリックに心底おののいた。本当に海を燃やしてる、この人たち。
妖しげな音に、赤いライトに、じっくりとなぶるように炎で全身むしばまれていく。「痛みなら分かち合える」とコーラスしながら眉間を寄せ、「幸せならアウトサイダー」と微笑む康司さんにもまた個人的に燃やされた。海を焼け地にしながら「あの海の大きさを僕は知ってるよ」と歌う健司さんにも。
いったん海を燃やし尽くしたところで前半は終わる。ずっと赤頭さんがギターの音を確認するように鳴らしていて、てっきり調整かなにかだと思っていたら、そのまま旋律が奏でられていった。ゆったりアレンジされたイントロに、「オワラセナイト」と歌うようなタイトルコールが被さる。
「ここから後半戦」と健司さんは言った。あ、と思う。わざとだ。"海を燃やし" てすべて "終わらせ" てから後半戦をはじめるの、絶対にわざと。
「終わらせないとなにもはじまんないからもったいない」。海を燃やすというのがこの対バンイベントの趣旨ではあるけれど、燃やしたらそれで終わりではない。海を燃やす、つまり不可能なことを可能に変えてからが本当のはじまりなのだと、提示されるようだった。
『KITAKU BEATS』、幸せそうに音を鳴らす4人が微笑ましい。場所チェンジすると見せかけて康司さんの後ろをついて回り、気づいて逃げられるとぐるぐる追いかける赤頭さんが楽しそうだった。この曲のときかは忘れたけど他にも、ボーカルパートを歌う康司さんのもとへじゃれに来たり、健司さんのスタンドからピックを取って投げたり、とにかく楽しそうでなによりだった。
スピーディーに駆け抜ける『エンドレスメーデー』、前にライブで聴いたときよりも力強く聴こえてグッときた。普段からだけどこの日は特に、康司さんが雄々しく食らいつくようにコーラスしていたように思う。
キュウソのステージに心から踊らされたあとで聴く『オドループ』は過去イチ沁みた。「踊ってない夜を知らない 踊ってない夜が気に入らない」って歌詞が、こんなにも実感をもって響いたことはない。「踊ってたい夜が大切なんです」とはまさに今日のような夜をいうんだろう。
本編ラストは『VISION』。少し歌いはじめたところで、健司さんが手振りで演奏をストップさせた。「歌詞間違えた……」とのこと。張りつめていた空気が一気にゆるく弾ける。
「あの……俺、キュウソがトウメイニンゲンカバーしてくれたときからずっとソワソワしてて……」と我慢しきれない様子で言う。
「リハのときタクロウさんがずっとオドループのベースライン弾いてて。いやいや、と。いや、ベースといえどさすがにオドループって分かるで、タクロウさんの天然が出てるんやろうな(笑)と。オドループカバーすると思ってたらトウメイニンゲンやるから……。俺サプライズに弱いんよ……」と健司さんは頭を抱える。そんな冒頭から本編ラストまで今までずっとソワソワしてたのも、隠してたのも凄い。
ラスト曲をやり直し、なんてハプニングも飲み込んでしまうぐらい、新曲とは思えないぐらい『VISION』は良かった。サビへ向けて徐々に高まり、上がりきったと思ったところからさらに弾ける曲は、てっぺんまで昇りつめてから急加速するジェットコースターみたいな気持ち良さがある。「ずっと譲れないVISION 理想以上の世界を 掴み取るんだ 今はただ」。だれにも譲れないスタイルを貫き通すふたバンドがぶつかり合ったこの夜に、ふさわしいナンバーに思えた。
アンコールは『夜にロックを聴いてしまったら』。The bandのときも同じようなことを思ったけれど「夜にロックを聴いてしまったら春がはじまった」なんて、私に春を咲かせてしまったバンド張本人が歌うの、ずるいんだよ。フレデリックのおかげで春がはじまってしまったというのに。最後、春が芽吹いたようにいちめんピンクに染まったステージを見ながら泣きそうだった。
どこか血に飢えたようなギラついた雰囲気を醸し出しながら「音楽好きな人両手を上げて」と健司さんは客席を煽る。あの、首筋を逆撫でされるようなイントロが音源そのままに鳴って、ゾクッとした。『イマジネーション』。
海どころじゃない、私たちすら、この曲に跡形もなく燃やされた。色っぽさとパワフルさを自在に歌い分ける健司さんの表現力。ひずみきった音。今までのフレデリックにはなかった尖った攻めの音楽に、立ち上がれなくなるほどめいっぱい殴られた。
「さぁ イマジネーション イマジネーション」と合唱する箇所だけでなく、コーラスのない部分もオフマイクで大きく口パクしていた(口ずさんでいた?)リズム隊が印象的だった。こんなにもひずんで前のめりな、ギターソロ然としたソロを弾く赤頭さん、初めて見た気がする。
健司さんは「俺たちから一生目を離さんとってください」と言った。そんなの。こんな、ずっと見ていたって初めて知るような新曲で殴りかかってくるようなバンドから、目離せるわけがないんだ。ずるい。最後までずるいな。
そうして、灰になるまで燃やし尽くされて、UMIMOYASUは終焉を遂げた。海も骨も丸焦げですよ、こんなの。
私の視界ヤバくない?20代で死ぬのかと思った
「…いける?」「ビビった?」じゃないのよ三原健司
燃えたねえ、海
なんの曲か忘れたけど、健司さんのお立ち台にギター組がいっぺんにのぼってて、片足乗っけたところでふたりが降りたから何事もなかったようにニコニコしてた康司さんが愛おしくてたまんなかった。それだけ。長々と読んでくれてありがとうございました。