あおいろ濃縮還元

虎視眈々、日々のあれこれ

犬の模様のブランケット

おでんにからしを付けるとうまいという世の摂理に齢23にもなってようやく辿り着く。時折おじいちゃんが作ってくれる鍋いっぱいのおでんこそがおでんだと思っているから、コンビニのそれはいちども食べたことがない、そういえば。大根とさつま揚げとはんぺんと卵とにんじんとこんにゃく、たまに入る餅巾着、ほろほろに煮たチキンレッグは気まぐれで手羽先に変わることもある。コンビニで売ってる牛すじなんかも食べてみたいと思いつつ、なんとなく手を出せずにいる。気が狂ったように問題集を解いている。問題集と問題集のあいまに生活をしている。今までの私なら夜が明けるまで寝どきを見失っていたんだろうけど、12時には寝る前の電話をしたいから11時には風呂に入って寝支度を済ます、だからそれまでにはノルマを終わらせておく、という人間らしいことも出来るようになった。ちゃんとご飯を食べて寝る。そんな当たり前のことが少しずつ出来るようになってきた。相変わらず寝つきと夢見は悪いけれども。もし将来猫を飼うことがあれば「にどね」か「夜」という名前をつけたい、とふと思った。この名前は犬ではなく猫に合うと思う。生き物あんまり得意じゃないからたぶん飼わないが、架空のペットの名前を考えるのはたのしい。年に50冊本を読みたいと思っていて、今読んでいるのを読了すれば20冊に届く。一昨年までは年に20数冊ほどしか読めなかったから上半期の滑り出しとしては上々。ただ、母校の図書館で学外利用登録をして、ふらっと本を借りに来ては学食を食べて帰る、ということを卒業後しようと思っていたのに、このご時世だからまだ達成できていない。今年中にはしたいな、どうかな。学食の冷やし釜玉うどんと、妙にポップな柄ばかり取り揃えていた図書館の貸し出しブランケットが恋しい。

 

なんでもない日

治安の悪い柄した柄シャツでスーパーへ行き乳酸菌を買う。最初は免疫力アップのために飲んでいたR-1が、免疫どうこうより便秘に効くためなんとなく手放せなくなった。昨日の夜はぶ厚いスウェットにブランケットに毛布の重装備でも震えていたのに、今日は嘘みたいに暑くて半袖で伸びている。来月からバイト先が営業を再開する。つかの間のニート生活もまもなく終わりである。自室とスーパーとコンビニのみで構成されるトライアングルじゃ星座にもなりやしなくて退屈だ。早くバイトがしたい。そんなことを言っている間に飲み干した乳酸菌が腹の中でぐつぐつ煮え立っている。この頃は豆乳を1杯と、水もよく飲むようにしているから、なんとなく身体中が潤っている気がする。新しい本がどうにも欲しいけれど金がないので積ん読を切り崩す日々である。大昔に読んだマスカレード・ホテルの筋は綺麗さっぱり忘れたが、続編というか前日譚であるマスカレード・イブはかなり面白かった。ホテルの方も読み返そうかな、気が向けば。

しょうゆ味

適当に前髪を巻いて、ちゃちゃっと眉毛を描き、手と顔のマスクから出る部分に日焼け止めを塗るだけ、が近頃の外出スタイルになっている。マスクをしてしまえば万事なんとかなる。前も書いたけれど最近は彼氏に贈られたワンピースをこれでもかと着倒している。コンビニやスーパーへ行くにも着る。というかコンビニかスーパーにしか出掛けないので、もう心地よく着られる季節のうちに元取ったれマインドでコロコロ着回している。いつファッション誌の着回し1week特集に選ばれても怖くない。

 

近所のスーパーは自粛ムードどころか三密って何?平日って何?とばかりに混んでいて、執拗に消毒用アルコールをすり込み、買い物客といそいそ距離をとる私のほうが馬鹿のような目で見られた。老人しかいない田舎だから仕方ないのだろうか。とはいえ、買い占めだと後ろ指をさされる、といった話も聞かないではないから、必要で買いに来た生理用ナプキンを吟味するのも憚られてしまう。色がかっこいいからという理由で特売の紫の歯ブラシをなんとなく買った。ちょっと透き通ったやつ。

 

あと絶対買おうと思っていたのは、パン屋のもちもちドーナツ(しょうゆ味)。子どもの握り拳くらいの、もちもちした揚げパンのようなものである。しょうゆ味以外は見たことがない。他に何味があるのだろう。絶対に今日はもちもちドーナツ(しょうゆ味)を買う、単品じゃなくて3個入りのやつ、と決めていたのにそんな時に限ってもちもちドーナツ(しょうゆ味)はなかった。ミニクロワッサンならあったけど、私が求めていたのはサクサクじゃなくてもちもちである。ベクトルが全然違うのだ。パン屋を3周ほどしたあとに結局ふわふわのロールパンを買ってやり過ごした。

 

スーパーを出た途端、私の前を歩いていたおじさんが秒速で煙草に火をつけた。煙草はまったくもって平気だけど、この世で見知らぬおじさんの副流煙ほど吸いたくないものはない。清々しいまでに豊かな色をした新緑と、チューリップのうつくしいフォルムを眺めることでどうにか気分を緩和した。ちょっと外に出ないだけで、世界の解像度がフルビジョンで見えるもんだなと思う。今日はお腹が痛いから、寝る前にあっためた低脂肪乳をのむことと、好きなバンドの動画を見ることを許そう。

 

 

御守

昔、吃音持ちの私は苛められるのがこわくて話すことができなかった。苛められることはなかったけど、誰とも話せなかったし笑うこともなかった。無愛想でかわいげのない自分のことが嫌いだった。五年生のころ、教育実習の先生がクラスひとりひとりに宛ててくれた手紙に「あおちゃんの笑った顔を見ると本当に幸せな気持ちになれました」と書いてくれた。花柄の封筒にはいったそれを、何度泣きながら読み返したかわからない。笑っていよう、と思った。

 

だから、どうして私と付き合いたいと思ったのか彼氏に尋ねて「笑った顔が好きでずっとそばで見てたいと思ったから」と返ってきたとき、"11歳の私" と "23歳のわたし" とがひと繋ぎになったような気がして、これまでのことぜんぶ報われたようで、涙がとまらなかった。またあるときは「吃るからア行の言葉はできれば言いたくない」とこぼしてしまった。別にフォローするふうでもなく「吃ってるところ好きだよ、一生懸命話してくれてるなあって思う」とさらっと言われて、またしても涙がとまらなくなった。気持ち悪がられるかイジられるか笑い飛ばされるかしか選択肢がなかった人生をはじめて肯定された気がした。

 

ふたりのおかげで死ぬまで背負うはずだったコンプレックスを、もしかしたらアイデンティティに変えられるかもしれないと思えた。どちらにしたって、こんな何気なく言ったことを私がお守りのように握り締めているなんて思っていないだろうけど。この先も勝手に、大切に懐へいれておくけれど、知らなくていいのだ。

 

 

 

 

花 -Mémento-Mori-

花 -Mémento-Mori-

 

まどろみと覚醒

テキストに青いマーカーを引きながら『重要と書かれた文字を写してく なぜ重要かわからないまま』という加藤千恵の短歌を思い出していた。夕飯に食べた餃子とビールの味は、歯を磨いても牛乳をのんでも口蓋に張り付いているような気がしてならない。ゴールデンウィークはもう終わるけれど、バイト先が依然として営業自粛を余儀なくされているフリーターにとっては今月いっぱいゴールデンマンスのようなものなので、とびっきり濃い色に爪を塗った。就活がなければ金髪にでもしているところだったし、惰弱な耳の持ち主でなければピアスのひとつもばちこんと開けていたところだけど、仕事のために短くしていた爪を伸ばす、ぐらいのささやかな反抗に留めておく。

 

眠気のバロメーターが1から10まであって、10に達したとき寝落ちてしまうとするならば、生理前は常に8から10という異様な眠気に襲われる。今日も3時間ほど昼寝と覚醒を繰り返した。なんど目を覚ましても、沼の底に引きずり込まれるような睡眠欲に首根っこを掴まれ、気絶するようにまた眠りに落ちた。つよい雨の音でなんどめかの覚醒をする。電気を点けていない部屋はすっかり暗くなっていた。まどろんでいると一瞬だけ何かが光って、雷だ、と思う。音は遅れてやってきたからかなり遠い。彼氏の所は大丈夫だろうかと寝ぼけた頭で思ったあとに、向こうはそもそも雨すら降っていないかもしれないのかと気付く。遠距離ってそういうことだった。だから寂しいとかではなくて、ああそっか文字通り手の届かない所にいるのだと実感を伴って確信に至った。

 

何もかも落ち着いたらめいっぱいめかしこんで、ひとりで美術館とカフェとカラオケと大型書店を1日中くるくると回って遊ぶのだ。

 

チョコミント

外に出たのは1週間ぐらいぶりだろうか、日付の感覚すら麻痺してきたのでわからないけど。ここ最近は徒歩数分のスーパーにすら行っていなかった。誕生日にLINEギフトで貰ったプレミアムロールケーキをいい加減引き換えたかったのと、買い置きしていた2リットルのお茶やらなにやらが一斉に底を尽きたのと、iTunesカードを買わないとサブスクが聴けなくなってしまうのと、とにかく不要不急という言葉にかまけていたあれこれが無視しきれなくなってしまい、眉のみを描いて外へ出た。

 

知らぬ間に桜が咲いていた。人通りはさすがに少ないが、車と自転車の往来は多い。暇を持て余した小学生が軒先でスケボーをしている。風の匂いや色彩や音の情報量がこんなにも多かったっけ、外。なんだかまぶしい気持ちになる。彼氏に贈られたワンピース、コンビニに出掛けるだけで着るのもどうかと思うけど、心地よく着られる季節に供養しておきたいからいいのだ、と言い聞かせるように裾をはためかせてずんずん歩いた。本当はゴールデンウイークにこれを着て会えるはずだったから悔しくてしかたないけど、来年はきっと。

 

コンビニに着く。レジに吊り下がるビニールを見るたび、ディストピア、と思う。関係ないけどディストピア小説が書きたい。必要なものに紛れて目についたアイスをカゴに入れた。このコンビニの店長はたいそう横柄なわりに仕事が雑でものすごく嫌いだったのだけど、今日は感じの良い金髪の女の子がニコニコとレジに立っていて和んだ。私も感じの良い人でありたいなあと思いながらきちんと目を見てありがとうございますを告げる。そういえば久しぶりに他人と話した。心のうるおい満タン補給し終えた気がする。……あ、ロールケーキ買ったのにアイスも買っちゃった、あーあ。

 

 

へらない紅

誕生日だからと妹がくれたブラウンのリップは貰ったそばから塗らなくなった。バイトから帰るバスの中で更新するのが常だったブログは、一時休業になってしまったから自然と書かなくなった。たまに必要に駆られてスーパーや郵便局へ出向くぐらいじゃメイクもしなくなった。ファンデーションや口紅はいっこうに減らないまま、繰り出し式のアイブロウだけが短くなっていく。余計なものが削ぎ落ちていく生活は、過剰に情報を摂取しすぎなければこれでいて快適でもある。色の抜けた髪は試験の前には染めておきたいけれど、明るく伸びきった前髪もまあ悪くないよねと思ってる。ライブに行けないのも美容室に二の足を踏むのも自分だけじゃ嫌だけど、今みんな前髪長いしなあ、と思うと愛おしくすらある。生活の隙間を縫って彼氏と電話をしていたら1日が無事に終わる。こんな状況で遠距離という絶望的なシチュエーションではあるけれど、笑っちゃうぐらい順調に仲がいい。お風呂上がりにのむグラスいっぱいの牛乳が美味しいし、Youtubeはじめ動画コンテンツも充実していて楽しい。あわやディストピア只中にある平穏を波風立てずやり過ごしていきたい。そのうちマスクをしなくても歩けるようになったら、生地にうつることを気にして無難なリップを選ばなくてよくなったら、意外とブラウンには見えない紅を引いて颯爽と歩くから。